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第57回 てきすとぽい杯
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夜の底の暗闇で
 投稿時刻 : 2020.06.13 23:33
 字数 : 623
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夜の底の暗闇で
ra-san(ラーさん)


「本当は誰でもよかた」

 彼女はそう言いながら、僕と今、駆け落ちをしている。

「家から逃げられれば誰でも」

 教室で隣の席というだけだた。夏でも長袖の彼女の服の下に、いつも真新しい青あざとタバコを押しつけられたような火傷の痕があることを僕は知ていた。
 そんな彼女がこの日の下校の直前に、僕の耳元で「駆け落ちしよう」と囁いたのだ。

「酷いでし?」

 駆け落ちといて、バスで少し遠くの街へ移動しただけで、僕たちの財布のお金は寂しくなた。行く当てもない僕たちは、そのままこの街をふらふらと歩きまわて、今は残たお金で買た自販機のコーンスープを二人で分け合いながら、空き地に放置された廃バスの横で、ひそりと夜を過ごそうとしているところだた。

「好きにしていいよ。あたしはさ、もう、終わてるから。この身体はさ、親の酒代だたから。だから、もう終わてるんだ。もう――

 寄り添う彼女の肩はひどく軽くて、薄くて、頼りなくて、

「でも、誰かは必要だたんでし?」

 だから僕は彼女の肩を抱いて、

「僕は君がよかた」

 そう彼女の目を覗き込んだ。

「だから、大丈夫――

 言葉にならない声で泣く彼女を抱き留めながら、けれど僕たちの未来が、この朽ちたクジラの死骸のような廃バスと同じに無残な姿で終わるなんてことは、簡単に想像できることだた。

「大丈夫――
「うん、大丈夫――

 そう繰り返しながら僕たちは、互いぬくもりを支えにして、夜の底の暗闇に潰されないように耐えていた。
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