てきすとぽい
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第57回 てきすとぽい杯
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バスの口内
(
小伏史央
)
投稿時刻 : 2020.06.13 23:39
字数 : 1296
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バスの口内
小伏史央
バンジ
ョ
ー
を弾きながらさだまさしが言
っ
た(言
っ
てないです)。
この世は一両のバスである、と。
たとえば、時間。時間は絶えず連続している。はじまりからおわりまで、時間は進み続ける。
たとえば、地球。地球は何度も何度も、路線バスのように太陽の周りを回り続ける。
この地域でもバスがリリー
ス禁止にな
っ
てから、しばらくが経
っ
た。
それでも釣りの趣味をやめることはできず、時間を見つけてはバス釣りにや
っ
てくる。
ルアー
を取り付け、釣り糸を落とすと、さ
っ
そく食いつきがあ
っ
た。
強い重みが腕にかかる。軽く泳がせたあと腕を上げ、リー
ルを巻いた。
待ちの少なさ、強い食いつき、力勝負に勝
っ
たときの快感。バス釣りはやはりクセになる。
釣れたオオクチバスが、目の前で糸に吊るされたままぴちぴちと尾を唸らせている。
針を外し、両手で掴んでその顔を見る。馬鹿みたいに口を開き、ぱくぱくと空気を食べている。
やはりリリー
ス禁止となると、罪悪感が湧き上が
っ
てきた。
特定外来生物なのは知
っ
ている。知
っ
ているが、やはりこれもひとつの殺生なのだろう。
ぱくぱくと開く、その口の中を覗くたびに、その口内に潜む小宇宙がこちらを覗き返している
ような気がして、あまり気分のいいものではなか
っ
た。
オオクチバスはその口の中に宇宙を見つけることが多い。
タイラギに寄生するカクレエビのようなものだが、バスのほかに寄生していることはなか
っ
た。
宇宙の中には無数の銀河系が集ま
っ
ている。銀河系のなかには人類のような知的生命体が住む
星もあることだろう。地球のように太陽の周りを回り、時間を積み重ねて文明を築いてきた生
命が、いくつもの星に広が
っ
ていることだ
っ
てあるだろう。
しかし小さすぎて、電子顕微鏡でも持ち込まない限り確認は困難だ。
それに珍しいことでもないし、調査には金がかかる。たいてい、バスの中から出てきた宇宙は
そのまま醤油漬けにすることが多か
っ
た。
帰宅後、数匹のオオクチバスで夕飯を作ることにした。
バスは臭いとよく言われるが、下処理をきちんとやればこれが案外と美味い。
持ち帰る前、釣
っ
ている間に、バケツに溜めた綺麗な水に泳がせておく。こうすると泥を吐く。
そして家ではまずウロコを落としてから、水でよく洗い、腹を裂く。内臓を取り出す。
内臓を取り出すと口付近の宇宙が残る。ものによ
っ
て大きさが違うから、頭を切り落とす前に、
腹の側から口のほうへと手を伸ばし、宇宙を摘まみ取るとよい。先に頭を落としてしまうと宇
宙が割れてしまうことがあ
っ
て、そうすると破裂した水風船のように消えてしまう。
宇宙が取れたら、ヒレを落とし、続いて頭も切り落とす。これで下処理は終了だ。
今日は天ぷらにした。よく衣のついたバスと、醤油につけた宇宙がいくつか。
この組み合わせが良いんだ。
食べるといつも、この宇宙のことを考える。
私が宇宙を食べている、この宇宙もまたどこかのバスに寄生しているのかもしれない。
バスに乗せてもら
っ
て川を泳いでいる。
でもそのうち特定外来生物として釣られる運命なのかもしれない。
終わりがいつ訪れるかなんてわからない。わからないまま食事を終える。
スイー
ツ専門店のプリンをおやつに食べる。
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