てきすとぽい
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第13回 文藝マガジン文戯杯「結晶」
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13
〕
ほろ苦く、甘酸っぱい
(
押利鰤鰤@二回目
)
投稿時刻 : 2020.11.10 01:10
最終更新 : 2020.11.16 23:02
字数 : 5037
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更新履歴
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2020/11/16 23:02:54
-
2020/11/15 10:12:04
-
2020/11/10 01:10:45
ほろ苦く、甘酸っぱい
押利鰤鰤@二回目
何もわからないのです。
何もわからない事がとても不安で恐ろしい。
暗闇の中、ベ
ッ
ドの上で布団にくるま
っ
ていたとしても、眠ることなどできません。
寝返りは打てますが、体を自分の力で起こす事は出来ませんでした。
どうしてこんな風にな
っ
てしま
っ
たのかと思いますが、それもまたわかりません。
こんなに何もかも解らなくな
っ
てしまうと言うことは、私に何かがき
っ
と起こ
っ
ているのでし
ょ
う。
だから解らなければ解らないほどに、不安にな
っ
てしまうのです。
私はその不安を何とかしようと必死に考えるのですが、そもそも何について考えれば良いのか解らないのでした。
私はギ
ュ
ッ
と手を握り締めます。
手に握られているのは棒の様な物。
そこから紐が出ていて、それは壁まで続いていました。
これが何だか解りませんが、何も解らない不安を解消するにはそれしか無い様に思えたのです。
「弟子屈さん、どうしましたか?」
そう言
っ
て部屋に入
っ
てきたのは見た事の無い中年男性でした。
「あら、お兄さん。どうしたの?」
「弟子屈さんがナー
スコー
ルを押したから様子を見にきたんですよ。今日も眠れないんですか?」
「あのね、私は何も解らなくな
っ
ち
ゃ
っ
たの。どうしてかしらね。私は何もできないのよ」
「弟子屈さんは昼間に寝すぎなんですよ。だから夜に寝れなくなるんですよ」
「そんなこと言
っ
た
っ
て、私は何も解らないもの。私はどうすればいい
っ
て言うの?」
私はお兄さんの言葉にイラ
ッ
としてしまい、つい強い口調で言
っ
てしま
っ
たのです。
「ごめんなさいね、弟子屈さん。どうしたらいいのかわからないんですもんね。それはどうしようもできないですよね」
そう言うとお兄さんは、ベ
ッ
ドから私を起こし車椅子へ移譲するとトイレに連れて行
っ
てくれたのでした。
途中窓の外を見るとまだ真
っ
暗で、大きなテー
ブルや椅子が並ぶホー
ルには最低限のライトが付いているだけでした。
お兄さんと私以外に誰もいません。
もしかして世界はお兄さんと私だけなのでは無いかと、とても不安になります。
「他の人はどうしたの?」
「皆さんお部屋で眠
っ
ていら
っ
し
ゃ
いますよ。今起きていら
っ
し
ゃ
るのは弟子屈さんだけですよ」
「そうなの?どうして私だけ起きているのかしら?私ね、わからないの。頭がぼー
っ
としていて、何も考えられなくな
っ
てしまい、バカにな
っ
ち
ゃ
っ
たの。こうや
っ
てお兄さんに車椅子を押してもらわないとトイレにも行けないんですもの。嫌になるわね」
「そのために僕らがいるんじ
ゃ
ないですか。弟子屈さんがトイレに行きたいと言えば何度でも連れて行くので言
っ
てくださいね。我慢して病気にな
っ
ても困るじ
ゃ
ないですか。ただナー
スコー
ルを押してみただけと言うのは今日はもう10回目ですけどさすがに困ります」
「そうなの?私、何も解らないから、お兄さん教えてね」
「ではトイレに入りますよ。入り口に指をぶつけないように気をつけてください。では止まります。ブレー
キをかけまして、足をフ
ッ
トサポー
トから下ろします。では前の安全バー
を両手で掴んで腰を浮かせて立ち上が
っ
ていただけますか。はい、ではち
ょ
っ
と頑張
っ
てその姿勢でいて下さい。ズボンを下ろしますよ。はいありがとうございます。では次にリハビリパンツを下ろして、尿とりパ
ッ
ドを外しますので、はいありがとうございます。それではお尻を回して便器に座
っ
ていただきます。はい、ありがとうございます」
お兄さんの言われるままに私は体を動かして便器に座
っ
た。
座
っ
て直ぐに尿が出てきたのが分か
っ
た。
「オシ
ッ
コが出てきたわ」
「よか
っ
たですね。では朝起きたときにすぐ起きれるように今のうちに着替えてしまいまし
ょ
う。では靴を脱いでいただきます。パジ
ャ
マのズボンを下げますね。ありがとうございます。では靴下を履いていただきます。ありがとうございます。その次にズボンを履きますよ。はい、ありがとうございます。パジ
ャ
マの上着を脱いでいただきます。そしてシ
ャ
ツを着ていただきます。はい、ありがとうございます。では尿取りパ
ッ
ドをつけるので安全バー
につかま
っ
て腰を浮かせてもら
っ
ていいですか?。ありがとうございます。ではその姿勢でち
ょ
っ
と頑張
っ
てくださいね。ではパ
ッ
ドをつけます。その次にリハビリパンツをあげまして、ズボンを上げます。ありがとうございます。それでは車椅子を寄せるので、車椅子に座
っ
ていただけますか?ありがとうございます。もう手を離して大丈夫ですよ。では足をフ
ッ
トサポー
トの上に乗せます。それでは、お部屋に行
っ
て朝までゆ
っ
くり眠りまし
ょ
うか」
「でもね。私眠れないの。どうしたら良いのかしら?何もわからないから、わからない
っ
てことが頭の中をぐるぐる回
っ
て、考えているとどんどん目が覚めてきて全然眠れなくな
っ
ち
ゃ
うの」
部屋に戻るまで私はお兄さんにそう言いました。
部屋にはあ
っ
という間に着いて、お兄さんは車椅子からベ
ッ
ドへ私を移してくれた。
「弟子屈さんは若い頃、結構やんち
ゃ
だ
っ
たんですよね?」
「そうなのよ。私結構気が短くて殴り合いの喧嘩とかよくや
っ
たわ。腕
っ
節が強か
っ
たから負けたことないの。炭坑街の生まれだからみんな生きるか死ぬかの仕事してるでし
ょ
う?だから結構気性が荒くて、中学生同士の決闘なんてみんな血まみれよ」
なぜだか当時のことが頭に浮かび私は少し懐かしく、幸せな気持ちにな
っ
た。
「結婚してからは商売もしてたのよ。人を何人も雇
っ
て、私はやり手だ
っ
たからすごく儲か
っ
たわ」
そう言
っ
たところでお兄さんがポケ
ッ
トから出した携帯電話がな
っ
ているのに気がついた。
「山田さんから呼ばれているので行きますね。弟子屈さんは解らないことを考えないで、楽しい事を考えてみてください。また来ますからゆ
っ
くり休んでください」
お兄さんはそう言うと部屋を出て行きました。
私は真
っ
暗な部屋の中でまた一人です。
お兄さんが言
っ
たように私の昔のことを思い出してみることにしました。
私の名前は美枝子。
旧姓は大宮。
父の出征中に、お腹が痛くな
っ
た母が病院に行
っ
たところ、そのまま産まれたそうです。
黒いダイヤと呼ばれた石炭の採掘を主産業とする炭鉱街で育ちました。
父も当然のように炭鉱夫で、割と偉い地位にいたので周りと比べれば少し裕福な家庭に生まれる事が出来たと言えます。
一男六女兄妹の次女でした。
おてんばだ
っ
たので、よく父には逆さ吊りされたり折檻を受けましたが、それで泣くような子供ではありませんでした。
中学生の頃には近隣の中学を締め上げ、「二枚刃の美枝子」と言う通り名を持
っ
ていました。
カミソリを二枚重ねて指に挟んでいたのですが、深く切れて傷が残りやすいのです。
当時の娯楽といえば映画だ
っ
たのですが、映画館も切符売りのおじさんに片手を上げて挨拶すれば、顔パスで中に入れてくれる程度には有名にな
っ
ていました。
中学を卒業した私は両親の手に職を付けろと言う方針で洋裁の学校に入りましたが、元々興味がなか
っ
たので家出して大阪に行きました。
任侠映画で憧れがあ
っ
たのか、都会に憧れがあ
っ
たのか、その両方だ
っ
たのでし
ょ
う。
歳をごまかして水商売で働きながら生活をしていました。
その時に知り合
っ
たヤクザ者と最初の結婚を結婚をしたのは二十歳の時です。
すぐに娘も生まれましたが、ヤクザ者の夫が組織同士の抗争の関係で身を隠すことになり、私の生まれ故郷に戻
っ
たのは22歳の時です。
元々暴力も酷か
っ
たのですが、姉の夫の首にドスを突きつけ殺すぞと言
っ
た事で親族に絶縁され、地元からいちばん近い地方都市に移り住みます。
そこでも夫の暴力は収まらず、ついカ
ッ
とな
っ
た私は護身用に持
っ
ていた短刀で夫の脇腹を刺してしまい、警察の厄介になる事になりました。
それがき
っ
かけで離婚をして娘と二人暮らしになり、その頃には長い炭鉱仕事で肺を患
っ
て仕事を辞めた父とも和解できて、や
っ
と普通の生活をするようになります。
生活も落ち着き始めた頃に知り合
っ
たのが2度目の結婚をする夫です。
真面目で腕のいい大工でした。
娘のことも可愛が
っ
てくれて、よく懐いていたので再婚を決めました。
人柄は私の両親にも気に入られ、よく父と一緒に飲みに行くほどでした。
二人の息子も生まれ、夫は独立して工務店を経営し、私はそれを手伝いました。
従業員も30人を超え、飲食店なども経営。
事業は拡大して行きました。
そんな中で娘と私に確執ができます。
娘は中学生かの頃から家出を繰り返すようになり、卒業する頃には地元の警察署の顔馴染みにな
っ
ていました。
高校にも行かず、夜遊びを繰り返し、警察に厄介になる日々が二十歳を過ぎる頃まで続きました。
成人してからは一人暮らしを始めたので親の手を離れたかと思いましたが、家賃滞納で住んでいたアパー
トを追い出されたり、タチの悪い男に捕ま
っ
て傷害沙汰にな
っ
たりして家にいた頃よりも面倒ごとが増えたりもしました。
普段は顔も見せないのに困
っ
た時だけ助けを求めてくるのです。
娘ですから当然助けますが、血の繋がらない夫に申し訳なくて、私はさらに娘に強く当たります。
それが良くなか
っ
たのかも知れませんが、何度目かの行方不明でまた娘が助けを求めてきたのでした。
雪が積
っ
たある日、待ち合わせ場所に行
っ
てみると娘は妊婦でホー
ムレスにな
っ
ていました。
妊娠して働けなくなり、家賃が払えなくな
っ
てアパー