第65回 てきすとぽい杯
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恐怖、廃病院のハンマードリル
投稿時刻 : 2021.10.16 23:36
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恐怖、廃病院のハンマードリル
ra-san(ラーさん)


「だから、こんなところに来るのは反対だたんだ!」

「いまさら言うな!」

 俺と中島は逃げていた。何からだて? ここは廃墟と化した病院跡。そうなれば答えは明白。

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

 幽霊だ。

「なんなんだよ、こいつ!?」

「知るかボケ!」

 これが「うらめしや」や、ドアの隙間からシイニングするようなタイプの幽霊だたら、どんなに良かたことか。しかし今、俺たちの後ろを追いかけてくる幽霊は姿こそオーソドクスな頭三角布の白装束だたが、その手にはマキタのハンマードリルをドドドと唸らせてくるタイプの幽霊だた。

「本当なんなんだよ、ハンマードリルて!」

「コンクリとか削岩しながら穴空ける工具だよ!」

「知るかボケ!」

 中島の解説に怒鳴り返しながら、ボクたちは廊下をひた走る。幽霊がハンマードリルを持ていることに疑問は尽きないが、コンクリに穴が空けられるなら人体に穴を空けることなど障子紙に指で穴を空けるよりもたやすいことだ。逃げるしかない。

「肝試しどころか命を試すことになろうとは」

「言てる場合か! ほら、突き当たる!」

 追い込まれた廊下の突き当たりには、逃げ込めるドアがひとつだけあた。ここに入るしかない。

「ドア塞ぐぞ! そこのロカーとか!」

 俺と中島は必死になてドアの前に障害物を置こうとする。幽霊にこんなものが通用するのか分からないが――と思ている間から、ドアに打ち付ける凶悪な破砕音が響き出した。

 ――ハンマードリルだ。

「だからなんなんだよ、ハンマードリルて!」

「だから打撃と回転を組み合わせた電動工具で――

「知るかボケ!」

 中島の解説を絶叫で遮り、今まさにハンマードリルの力により破壊されていくドアを見ながら、俺はどうするべきか必死に考えた。ハンマードリル。物理力。物理には物理。物理はすべてを解決する。俺は物理を信奉した。

「中島!」

 俺の告げた作戦に中島が目を見開く。俺と中島は協力してロカーを抱え、その天板を今まさにハンマードリルに破られんとするドアに向ける。打ち続く破砕音。そしてドアが――

 ――破れた。

「い!」

 開放されたドアの前に立つ、ハンマードリル幽霊にロカーを抱えて突撃する。

 ――物理衝撃。

「え!?」

 俺は廊下の壁に激突した衝撃で、床に尻もちをついた。その俺を血走た目で見下ろす幽霊。躱された。殺られる。そう恐怖に固まる直前だた。

「おららららららら!」

「あばばばばばばば!」

 中島がハンマードリルを幽霊に打ち付けていた。どうやら幽霊は俺たちのロカーアタクでハンマードリルを手落とし、それを中島が素早く拾たらしい。

「マキタはこう使うんだよ!」

 ハンマードリルの振動と回転で幽霊の姿が薄れていく。マキタ凄い。

「成仏しろよ」

「あば!」

 ハンマードリルのパワーを上げる中島。これがとどめか、幽霊が断末魔の叫びを上げて消滅する。

「勝――

「ああ――

 俺と中島はともにマキタのハンマードリルを見つめ、声を揃えて言た。

「「マキタ凄!」」
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