てきすとぽい
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第6回 てきすとぽい杯〈途中非公開〉
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さよなら
(
小伏史央
)
投稿時刻 : 2013.06.15 23:40
字数 : 1503
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さよなら
小伏史央
太陽の熱はとても冷たいのです。ウ
ィ
ー
ブは自身を抱きしめました。肩が小刻みに震えています。太陽程度では充分な暖がとれません。
仲間たちはどうしているだろう
……
。ウ
ィ
ー
ブは首をすくめて思いを馳せます。もうへその緒を通過して、向こう側に到着しているかもしれない。ぼくは置いてけぼりにな
っ
たんだ。
――
ウ
ィ
ー
ブの考えることは徐々に降下してゆきました。じわりと沁みるものがウ
ィ
ー
ブの胸を突き刺します。
なにもない真
っ
暗な空間で、色褪せた太陽だけがウ
ィ
ー
ブに光を与えています。しかし太陽は冷たいのです。ウ
ィ
ー
ブは太陽に背中を向けました。背中に微弱な熱がぶつかります。閉じ込められたように色のない景色が、どこまでも続いているように見えました。ず
っ
とず
っ
と遠くに、ち
っ
ぽけで緩やかな連星が窺えるだけで、ウ
ィ
ー
ブの心を満たすものは、なにもありません。必然的にウ
ィ
ー
ブは、胸の内にこも
っ
ている熱、自分の記憶に、目を向けてゆくのです。
……
あるとき、宇宙のいたるところにワー
ムホー
ルが出現しました。宇宙が膨らむときに必要なエネルギー
が、ワー
ムホー
ルにな
っ
たのです。ウ
ィ
ー
ブの仲間たちは、それを〈へその緒〉と呼びました。
……
太陽はいびつな形をしています。いつの間にやらまた太陽と向き直
っ
たウ
ィ
ー
ブは、じ
っ
と薄い膜を眺めていました。膜の内側で、かろうじて生成され続けているヘリウムが、力なく漂
っ
ています。ウ
ィ
ー
ブは太陽の膜を指でつつきました。ぶにぶにとまるで生き物のようです。しかし生きてなどいません。ウ
ィ
ー
ブのいたずらに、なにも応じず、されるがまま膜は揺らめきます。
……
宇宙はつなが
っ
てゆくのです。母親宇宙から、子ども宇宙へと。へその緒が生じ、そこから新たなる宇宙が膨らんでゆきます。そしてへその緒が切れたとき
――
母親宇宙と子ども宇宙の因果が断ち切れたとき、赤ん坊が産み落とされるのです。
……
ウ
ィ
ー
ブは両手を枕にして、太陽のそばに寝転がりました。もう仲間と会うことはできないでし
ょ
う。仕方のないことなのです。個よりも種を尊重し、なによりも生き残ることを優先する。それが生命体全体の揺るがない欲求であり、ウ
ィ
ー
ブにと
っ
ても最大の願いであるのです。
諦めはついていました。だというのに胸が痛い、痛い
――
ウ
ィ
ー
ブは涙を拭いました。拭き損ねた涙が、暗闇に浮かんで、太陽の膜を通り抜けてゆきます。少しだけ、太陽の熱が温かくな
っ
たような気がしました。ウ
ィ
ー
ブは体を起こします。
連星は、沙漠に紛れたダイヤモンドのように。太陽は、廃れてしま
っ
た枯れたオアシスのように。ウ
ィ
ー
ブは立ち上が
っ
て、静かな宇宙を見渡しました。なにもない足元。なにもない天井。気付けば床と天井が入れ替わ
っ
ていて。それでも太陽はすぐそばにありました。太陽にはかつてのような炎はなく、ただ消え入るような冷たさの中身と、その膜があるだけでした。膜のなかには、塵と、砂と、ヘリウムと。
突然ウ
ィ
ー
ブは、その塵のなかに、過去の栄光を見出しました。それは太陽の最後のあがきのようでもありました。その塵には、生命が繁栄した姿
――
地球のおもかげがあ
っ
たのです。
ウ
ィ
ー
ブは今度こそ涙を流しました。堰き止めていたものが崩れてしま
っ
たように、涙はとめどなく流れました。拭ういとまも与えません。ウ
ィ
ー
ブはたくさん泣きました。泣けば泣くほど、ウ
ィ
ー
ブの胸が潤
っ
てゆきます。気力が甦
っ
てゆきます。そのたびに太陽も明るくな
っ
ているような気がしました。仲間とはぐれて、生きるのを諦めてから、この太陽はず
っ
とウ
ィ
ー
ブのそばにいてくれたのです。ウ
ィ
ー
ブは強く太陽を抱きしめました。
太陽はパ
ァ
ンとはじけて、なくなりました。
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