てきすとぽいトップページへ
第6回 てきすとぽい杯〈途中非公開〉
 1  4  5 «〔 作品6 〕» 7  13 
 投稿時刻 : 2013.06.15 23:38
 字数 : 1522
5
投票しない
10%
しゃん@にゃん革


 光太郎の夢は、光の速さで敵を圧倒することだた。
 子供の頃見たコミクに、球速160キロに達するとボールが光の球になるシーンがあた。
 ベースの手前で白く輝き、軌道を見失た打者はまぶしさのあまりバトを振ることも忘れてしまう。
 コミクの世界の出来事と思う反面、あり得ないことではないかもという期待もあた。
 160キロという速さは、当時プロ野球界では誰も達成していなかた。
 いつか自分が必ず。強くそう願いながら、光太郎は文字通り人の3倍練習を積み重ねてきた。

 けれども、世の中は公平にはできていない。
 高校時代に最速146キロのストレートを投げ、県大会では強豪校を破り大金星をあげた光太郎だたが、それが投手としてのピークとなた。
 決勝では0-1で敗れたため甲子園には出られず、またスカウトが太鼓判を押せるほど圧倒的な球速をものにできたわけでもない。
 夢の90%ほどはかなえたのに、10%が足りなかた。160キロの90%では、球が消えるどこか、コースを間違えればスタンドに運ばれてしまうのだ。
 自分には、どうしても残り10%が手に入れることができない。
 それを悟るまでに、光太郎は5年の歳月を必要とした。
 社会人野球でもまれつづけたものの、それでも球速は148キロ止まり。
 ストレートにこだわるあまり、球種の少ない光太郎は、球威の衰える終盤に打ち込まれることがたびたびだた。
 コーチには「もと緩急を使え」と当たり前の指導をされたが、光太郎には緩いボールがない。
 140キロ台のますぐの他は、130キロ前後のスライダーと120キロ台のチンジアプくらいなものだた。

 現実的に考えて、100キロ台の変化球が必要だ。
 またしても後半のイニングに打ち込まれた後、ベンチに下がり光太郎は痛感した。
 40キロの緩急があれば、打者を翻弄できる。
 高校時代から分かていたことだたが、やはり自分が投げたいのは光の速さの球だた。

 社会人野球でも芽が出ず、高校時代のチームメイトからの応援も近頃ではまばらになていた。
 無名校に甲子園行きの夢を与えた英雄も、今では過去の人になりつつある。
 むしろ大学を出て、企業で働きはじめた彼らの方が光太郎にとてはまぶしいほどだ。

 誰の期待にも応えられず、自分の夢もかなえられず、社会人野球という最高峰一歩手前の舞台でユニフムをいずれ脱ぐことになる。
 俺は野球が好きなのではなく、光の球を投げたいだけなんだ。
 練習後、日が落ちかけたグラウンドで光太郎は投手としてのアイデンテを確認した。

 足元に転がるボールを握る。
 チームには解散の噂もある。
 それが現実となた時、光太郎の選択肢は多くない。
 野球を辞めるか、地方の独立リーグの入団テストを受けるか。
 せいぜいその程度のものだろう。

 チームメイトがいなくなたグラウンドで、光太郎はマウンドに立ち、思い切りふりかぶた。
 勢いよく腕をふり、バクネトめがけてボールを投げる。
 指のかかりは最高だ。 
 リリースの瞬間、ピシと爆ぜる音が耳元に響いた。

 が、それでもボールが光るはずもない。
 そう思た瞬間、わずかコンマ数秒の間、確かにボールが消えた。
 夕日が反射したせいかもしれない。
 けれども、光太郎は残りの10%を手に入れたような気がする。

 緩急か、と知らない間につぶやいていた。
 重く、圧倒的な扉を完全に開けたとは言えないが、ようやく次の扉へ進める気分になた。
 ホームベースの近くまでボールを取りに行くと、光太郎は握りを変えた。

 やはり緩いボールと言えば、カーブか。
 ただのカーブでは面白くないから、ナクルカーブを試してみるか。
 光太郎はもう一度マウンドに立つと、今度はゆくりとしたフムでスローボールを投げてみた。



  
← 前の作品へ
次の作品へ →
5 投票しない