第6回 てきすとぽい杯〈途中非公開〉
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A・I・応答せよ
投稿時刻 : 2013.06.15 23:28
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A・I・応答せよ
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「頬が緩むとは、どういうことですか」
 と、私の傍らにやってきたアンドロイドは言った。
「1号ってさ、時々子供みたいな質問をするよね」
「私は、そういう風にプログラムされているので」
 1号はアンドロイドとしては実験的なタイプだ。必要な知識全てが最初からインストールされているわけではなくて、必要に応じて必要な情報をAIが収集し学習していく。だから時々、こんな初歩的な語彙についても質問したりする。それに本体の方も旧式だから、動きはぎこちないし、顔の表情は乏しいし、構成される音声もかなり抑揚がない。
「慣用句だよ。まあ、嬉しくてニコニコするって感じの意味」
「それは、良いことですか? 悪いことですか?」
「いいことでしょ、嬉しいんだから」
 少しの沈黙の後、1号は言った。
「私の頬は緩みません」
「1号の顔はあんまり動かないもんね」
「それは悪いことですか?」
「仕方のないことなんじゃない?」
 そう言うと、1号はしばらく沈黙した後、どこかへ立ち去った。
 私はやりかけていた作業を再開する。新しく博士が作ろうとしているロボットの本体を作っているのだ。
 やがて1号は再び戻ってきた。
「私は、あなたが好きです」
「ええ? それ、どういうこと?」
「恋をしました」
「ねえ、1号、恋をするってどういうことかわかって言ってる?」
「わかりませんが、これまでに収集した恋というものの情報に照らし合わせると、私は今、あなたに恋をしたと表現するのが一番妥当だと判断しました」
「わからないのに、って」
 私はその言葉に、なんだかイラっとしてしまった。イラっとする感情は苦手だけど、私は人間と同じ感情を持てるようにプログラムされているから仕方がない。私は人間と同じ感情を持てるように仕組まれているのに、恋というものはまだ知らなかった。なのに、私より未発達なAIを持っているはずの1号が愛を告白してきたことに、イラっとしている。これは嫉妬というやつだ。
「困るよ」
 と私は言った。一号が無表情のまま首をかしげた。
「それは、良いことですか? 悪いことですか?」
「良いことでも悪いことでもないよ。私は、困るんだよ」
「あなたの頬は緩まないのですね」
「緩まないよ、困ってるんだから」
「博士は、私があなたに恋をしたと知って、とてもにこにこしていました。頬が緩んでいました」
「それは、博士だからだよ」
「あなたが嬉しくないのなら、悪いことではないのですか?」
「良いことでも悪いことでもないよ。私が困ってるだけだよ」
 そう言うと、1号はほんの一瞬だけフリーズした。時々処理が重くなって動かなくなることがある。多分恋という感情エネルギーを使ったことで重くなったんだ。それから、無表情のままで、言った。
「私は、あなたが嬉しくないなら悪いことだと思う。でも私は、あなたに恋をしたことを嬉しいと思う。なのに私の頬は緩みません」
 それからまた一瞬フリーズして、復帰して、続けた。
「お願いがあります。もしあなたが、私の気持ちに困らなくなる日が来たら、私の頬のネジを緩めてもらえますか」
「そんな日は永遠に来ないよ」
「そうですか」

 博士は私も本当は恋に落ちたんだと断言した。
「仮にそうだとしても、困ります」
「そうだなあ」
「恋をしても、必ずしも嬉しいものではないのです」
「そうだなあ」
「1号は子供のようなのです」
「そうだなあ。それが僕は、愛しいと思うよ」
 私はそうは思わなかった。

 10年後、人工知能規正法が改正され、不確定要素の高い動きをするAIを搭載したアンドロイドは処分されることが義務付けられた。
「最後だからね、1号。ネジを緩めてあげるよ」
 博士はそう言いながら、1号の顔の部分を分解した。私は未だに1号の愛に困っていたので、約束は果たさなかった。
「1号、君は笑っている?」
「わかりません。笑っているかはわかりませんが、ひとつだけわかりました。恋をしていると、嬉しいだけではないのですね」
 そう言う1号の頬に近い部分の部品は緩んで、がたがたになっていた。私にはそれがずいぶんと穏やかな笑みにも見えた。そうして私はまた死にゆく1号に嫉妬するのだ。
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