緩慢に反応しない粒子
緩やかに身を捩る。意識はまだ朦朧としていて、掛け布団は水を含んだように重い。天井灯はいつの間にか消されていた。夜が明けようとしている。寝返りも打てないほどに疲労していた。腕を持ち上げ自分の手の甲を見つめる。関節の軋む音が聞こえる。首を捻ると隣の枕は冷ややかに窪んでいた。女は何処に行
ってしまったのだろう。
応じる女の熱に浮かされた声が、まだ耳にこびり着いている。彼女は言った。
「足りないの」と。
「何が?」俺は尋ねる。
俺の背中に手を回し、彼女は呼吸を整えていた。
「残された時間の分量が」
消えいるような声で、女は「時間の分量」と言った。奇異な言い回しだと思ったが特別の言及はしなかった。女は少しだけ身を引き、シーツから砂を掬い取るような動きをした。そうして掌の上の存在していない物質を大切そうに見つめていた。
子細に思い出せる。女は時間を止めるべく足掻いているように見えた。空が白み、誰も居ない室内を照らす。俺は時計を探す。
「砂時計……?」
ベットサイドの目覚まし時計が置かれていたはずの場所に、何故だか砂時計が置かれている。三分だか五分だかの小さな砂時計。彼女が置いていったのだろうか。鈍重な思考のままに光の指す方向に顔を動かす。淡く発光する窓が、外界の現実感を損なわせている。錆び付いたような首を動かし、再び砂時計に目を向ける。
砂は
まだ
落ち切っていない。
目を覚ましてかなりの時間が経過しているはずなのに、その小さな硝子の砂時計はまだ動き続けている。いつまで眺めていても、流れていく砂は減りも増えもしない。
「足りないの」女の声が耳にこびり着いている。俺は身体を動かすことが出来ない。砂に埋められたかのように。