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推敲バトル The First <後編>
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シェネイ
(
豆ヒヨコ
)
投稿時刻 : 2013.06.22 20:04
最終更新 : 2013.07.30 23:11
字数 : 2446
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2013/07/30 23:11:38
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2013/07/27 07:29:07
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2013/07/24 22:01:59
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2013/07/24 22:01:24
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2013/07/23 16:07:28
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2013/07/23 16:06:56
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2013/07/23 06:50:41
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2013/07/23 06:48:48
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2013/07/23 06:47:05
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2013/07/23 06:45:30
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2013/07/23 06:44:43
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2013/07/23 06:40:39
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2013/07/22 11:06:50
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2013/07/12 10:02:50
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2013/07/12 10:01:12
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2013/07/12 09:57:44
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2013/07/12 09:54:12
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2013/07/10 07:33:02
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2013/07/10 07:26:52
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2013/07/10 07:14:41
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2013/07/09 20:09:56
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2013/07/09 19:53:16
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2013/07/09 18:06:17
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2013/07/09 17:52:20
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2013/06/22 20:04:23
シェネイ
豆ヒヨコ
「僕はシ
ェ
ネイNO.
2985。恋人は、きみで間違いないかな」
澄んだ湖にも似た青い瞳に微笑みをたたえ、彼はこちらを見つめた。仕切りのない冷蔵庫から、長い脚を伸ばして立ち上がる。背が高く185cm強というところで、ほ
っ
そりしてはいるが程よい筋肉質だ。涼やかなスラヴ系の顔立ちは、確かに注文通りだ
っ
た。シ
ェ
ネイ。ブロンドの前髪が額に落ちかかり、鬱陶しそうに指で払う。
「ええと、はい、まあ、そうです」
「ここはどこ?」
あたしは取り落とした説明書を拾い、その裏面に書かれた世界地図を見せた。
「日本で、首都の東京」
「おお、ずいぶん遠くにきたな。初のアジア圏だよ」
彼の眼に光が宿
っ
た。しみひとつない陶器のような肌に、汗とは違う、細かい結露が勢いよく湧いた。真
っ
白なシ
ャ
ツに、するすると滴り落ちて円をつくる。
「暑くないの?」
言
っ
てから、寒くないか聞くべきだ
っ
たかとあたしは逡巡した。
「少し暑いかな。でも大丈夫、すぐ慣れる。汗ばんでるくらいのほうが楽しいし、ね」
ニ
ッ
と笑いながら、彼はあたしの頬をそ
っ
と撫でた。大きな手で包むように、親指だけを動かして。それだけで気持ちよく、あたしは目まいを起こしそうになる。
確かにこの部屋は暑い。西向きで夕日がアホほど差す上、高層ビルに挟まれて風通しが最悪だから。湿気が多くて居心地が悪い。本当はシ
ェ
ネイなんか置く場所もないくらい、物にあふれて小さな部屋なのだ。でも、つい買
っ
てしま
っ
たのだ
っ
た。深夜のテレビシ
ョ
ッ
ピングで、不覚にも心を動かされて。
ライトブルー
の冷蔵庫は、シ
ェ
ネイを届ける使命を終え、静かにモー
ター
の動きを止めた。
予備バ
ッ
テリー
のオプシ
ョ
ンをつけなか
っ
たので、激しい運動をした場合、シ
ェ
ネイは速やかに経口で栄養(正しくはバイオエネルギー
)を摂らなければならなか
っ
た。冷蔵庫―彼が入
っ
ていたのではなく、あたしが日ごろ使
っ
ている方―に残
っ
ていたモヤシとシメジで、簡単に豚肉炒めを作る。
「旨いな。これは塩? 僕の国にはない味わいだ」
初体験のし
ょ
う油味がお気に召したらしい。
「それは何?」
あたしは白飯に生卵をかけて食べていた。大したもんじ
ゃ
ないわと答えてツルリと白身をすする。
「なんだかドロドロして不気味に見えるけど」
「食べてみる?」
「いや結構。サスペンシ
ョ
ンに異常をきたしそうだ」
シ
ェ
ネイは、素
っ
裸にタオルケ
ッ
トを一枚だけ巻きつけて座
っ
ていた。洗いたての金髪がざ
っ
くり乱れて、少年みたいにところどころ尖
っ
ている。そうしていると彼は幼く見えた。終えた行為はまるで逆なのに、大人から子どもに変貌した感じがした。
あたしは質問してみたくなる。
「どうしてこの仕事をしてるの」
シ
ェ
ネイは、深く悩むふうでもなく首を傾げた。
「理由は特にないな。成り行きだよ。兄弟が9人いて養わなき
ゃ
ならないし、僕は割と贅沢が好きだから。大した苦労じ
ゃ
ない、サイボー
グになるくらいはね」
来週ドバイに遊びに行くんだ、初めての中東だよと嬉しそうに笑う。
「何故きみは僕を呼んだ?」
彼は聞いた。ペ
ッ
トボトルの蓋を、あたしは手のひらでクルクルといじり回した。
「わからないわ。ただ会
っ
てみたか
っ
たから。抱きしめて、大丈夫だよ
っ
て言
っ
てほしか
っ
たの。それだけ」
まるで子供みたいだと恥ずかしくな
っ
た。けれどそれは嘘のない気持ちだ
っ
た。テレビの画面で彼を初めて見たとき、感じたのは紛れもない希望だ
っ
た。法外な、貯金を使い果たすレベルの利用金額も吹き飛ぶくらいの、立派な一目ぼれだ
っ
たのだ。
「元気になれた?」
シ
ェ
ネイの声はやさしい。かすれてセクシー
で、あたたかみに満ちている。
「わからない。少なくとも今は」
あたしは答えた。
スー
ツの上着を脱ぎ洗濯機の上にたたんで置いてから、あたしはリビングのドアを開けた。ライトブルー
の冷蔵庫の前で、シ
ェ
ネイは体育座りのように体を縮め、静かに寝転が
っ
ていた。彼はすでに呼吸をしていなか
っ
た。頬の赤みは消え、まぶたは閉じきらず薄く白目をむいている。そ
っ
と腕に触れると、昨日の張りつめた弾力は失せて、ソー
ダアイスのように固ま
っ
ていた。
出社前に施したおいた凝固作業がうまくい
っ
たことに、あたしはひとまず安堵する。
筋肉注射は扱いが難しく、あたしはひどく手間取
っ
て、結局会社に遅刻してしま
っ
たのだ
っ
た。薬品で安定させた後、低温に冷やして鮮度を保つ。それだけのことが、素人にはとても難しい。
「ああごめん、上手くいかない、ごめんね」
何度も針を刺しては失敗し、半泣きで謝るあたしに、シ
ェ
ネイは冷や汗をかきながらも笑
っ
てくれた。
「泣くことはない。弱虫だな」
そ
っ
と涙を拭
っ
てくれた長い指。今はし
っ
かりと膝に回され、組んだ手をほどくこともできなかい。
冷蔵庫を開け、やさしく、やさしく、シ
ェ
ネイを押し込む。乱暴にして骨ごと砕けてはいけないと、できるだけ丁寧に扱う。驚くほど軽いのは、やはりサイボー
グだからだろうか。漏れだした白い冷気が、狭くて小さいあたしの部屋を、静かに冷やしていく。
「転送」
銀色のマイクは、一発で意図を読み取
っ
た。ひときわ大きな音をたてて、冷蔵庫のフ
ァ
ンが回り始める。金色の髪が、ドアを閉めたあとも、あたしの手のひらに2、3本残
っ
た。
ふと一枚のメモが目に入
っ
た。冷蔵庫のドア上部に、マグネ
ッ
トでぺたりと貼られている。あたしのボー
ルペンで書かれた、くせのある筆跡の走り書きだ
っ
た。
「次はアジアンの奴がおすすめ。僕でももちろん構わない。NO.
2985で発注して シ
ェ
ネイ」
あたしは思わず笑う。商魂たくましい。あの生命力はなんだろう。
何度か読み返してから、メモを破
っ
て細かくし、まとめてゴミ箱へ放
っ
た。部屋はすでに湿度と温度を取り戻し、いつもの不快な空間へと戻
っ
ていた。
軽く汗をかいた額を拭い、あたしはシ
ャ
ワー
を浴びたいと思
っ
た。
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