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世界遺産シリーズ3 深夜のブレーキ音
(
伝説の企画屋しゃん
)
投稿時刻 : 2013.09.03 00:20
最終更新 : 2013.09.03 00:54
字数 : 1645
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2013/09/03 00:54:28
-
2013/09/03 00:45:47
-
2013/09/03 00:20:53
世界遺産シリーズ3 深夜のブレーキ音
伝説の企画屋しゃん
みなさんがもし、軽トラ
ッ
クの運転手だとします。
ある日、お客さんから空の木箱を渡されたら、どう思います?
正確には中身が空であることは確認できません。
けれども、手に持てばそらくらいは分かります。
箱は片手で持てるサイズ、それ以上の重みはどこにもない。
いくら振
っ
ても音だ
っ
てしないのだから、き
っ
とネジ一本も入
っ
ていないのでし
ょ
う。
私の助手席には、そんな得体の知れない積荷が無造作に置かれています。
後ろの貨物庫に入れてもいいんですが、なんせ箱が軽すぎるもので。
いやね、本当、骨みたいに軽いんですよ、これ。
ち
ょ
っ
とした衝撃で穴が開きそうなんで、目の届く場所に置いているんですけどね。
私もこの商売は長いですけど、ここまで薄気味悪い荷物ははじめてですわ。
え、どこが薄気味悪いのか
っ
て?
これ、どこへ運ぶと思います?
墓地ですよ、墓地。
私、今、街灯もろくにない半ば農道みたいな暗い道を、軽トラ
ッ
クのヘ
ッ
ドライトを頼りに走
っ
ているんですよ。
まあ、軽トラ稼業ですから、深夜にお呼びがかかることだ
っ
て珍しくありません。
世の中不景気だと言いますが、なかなかどうして。
町工場が作
っ
た部品をも
っ
と大きな工場へ届けたり。
どんな使い道があるのか、ダンボー
ル箱い
っ
ぱいの書類を情報処理センター
とやらに運んだり。
この仕事をしていると、日本が24時間動きつづけているのが、は
っ
きりと分かります。
正月がない人だ
っ
て大勢いるんですから。
みなさん、いささか働きすぎかもしれないですね。
だからね、少々おかしな人がいた
っ
て、不思議でもないのでし
ょ
う。
それでもね、今夜の客はまともじ
ゃ
ないですよ。
わざわざ高い金を払
っ
て、役に立ちそうにもない木箱を墓地に運べだなんて。
いかにも訳あり
っ
て雰囲気じ
ゃ
ないですか。
は?
その客、どんな相手なのか
っ
て?
まあ、これだけが役得
っ
て奴ですかね。
若い女なんですよ、これが。
ただね、その女に呼び出されるの、今夜で5回目なんですけどね。
実は、私、一度も荷物を最後まで届けたことがないんですよ。
まあ、セキ
ュ
リテ
ィ
もない林の裏の古アパー
トに、女が一人で住んでいるのも奇妙な話ではありますが。
そんなことは、どうだ
っ
ていいんです。
毎度毎度、深夜の12時に呼ばれて、青白い顔で「これ、お願いします」とぽそりと言われるのも、どうでもいいんです。
ただね、この木の箱。
こいつだけは、どうにかならないですかね。
墓地に近づくと、いつの間にか消えているんですわ。
おかげで、受領印をもらい損ねているんですよ。
ああ、怖い怖い。
こ
っ
ちは仕事しているのに受領印もないんじ
ゃ
、お金を払
っ
てもらえないし、本部にだ
っ
て叱られますよ。
背筋が、ぞ
っ
とするじ
ゃ
ないですか。
それにしても、あのアパー
ト。
階段がさび付いて、いかにも年季が入
っ
た趣ですが。
あんなの昔からあ
っ
たかな。
気のせいか、あの若い女、数週間前にはねた通行人にち
ょ
っ
と似ているんですよねえ。
一体私が運んでいるもの、何なのでし
ょ
う。
◆ ◆
壁にかか
っ
た時計の針が12時を回り、あたしは溜め息をついた。
あの運転手がついに来なくな
っ
てしま
っ
たのだ。
あたしは、運転手に木の箱を運ばせていた。
けれども、あれは本当は木の箱じ
ゃ
ない。
あれは、今はなくな
っ
てしま
っ
たあたしの肉体の一部。
あたしには、そうすることしかできなか
っ
た。
死後の世界は満更でもないけど、不自由な縛りも多い。
あたしはただ、あの稼ぎの少ない運転手に仕事を与えたか
っ
ただけなのに。
死んでよか
っ
た、とあたしは思う。
生の世界なんて、亡霊の住処みたいなもの。
もう見ず知らずの男の部屋に泊まりこみ、侮蔑が混ざ
っ
た目で見下されることもない。
それなのに、あの運転手は来なくな
っ
てしま
っ
た。
あたしは彼をここへ呼び、恩返ししようと思う。
き
っ
と、そのほうが幸せだよね。
何故なら、彼が死んでも悲しむ人などいないのだから。
彼の車のバンパー
には触媒が残
っ
ている。
あたしの血。
ルー
ムミラー
からうかがう彼の顔は、今日もこの世に絶望しているみたい。
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