第8回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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水槽キンギョ船団
投稿時刻 : 2013.08.17 17:10 最終更新 : 2013.08.17 21:11
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- 2013/08/17 21:11:19
- 2013/08/17 17:10:33
水槽キンギョ船団
小伏史央


 わたしは透明のなかを泳いだ。いたるところから照明がさして影は身を潜めている。けれど壁の外側は、なにもかもを影が包んでいる宇宙なのだ。わたしは泳ぐ。
 この船団はいくつかの宇宙船を複合してつくられている。船と船を複数の廊下で連絡し、船団は複雑な蜘蛛の巣のようになている。船団というよりもひとつの大きな船と捉えたほうが正しいのかもしれない。
 わたしはこの広い船団のなかで、雑務に追い回されていた。食糧物資配給の仕事がようやく済み、いまは待機室のある船に戻るところだ。長い廊下はまるで配水管だ。無重力のなかを掻き進むように泳ぐ。
 進んでいると、曲がり角のあたりで話し声が聞こえた。わたしはすぐに道を引き返した。声が近づいてくる。急いでどこか隠れる場所を探したが、影もできないこの廊下に、そんなところはない。そうしている間に太たキンギたちの姿が見えた。身をちぢめて壁に体を押し付ける。どうかわたしを見ないでくれ。どうかわたしに話しかけないでくれ。どうかわたしを笑わないでくれ。壁の一点だけを見つめてわたしは祈た。
 キンギたちが通り過ぎてからもしばらくはそうしていた。どうやら見逃してもらえたようだ。わたしはホと溜息をついて、待機室に行こうと壁から目を離した。
 そこに鏡が浮かんでいた。
 醜い顔。醜い体。一瞬にして現実が網膜を突き破る。じんじんと縛るような痛みが胸の奥を突き刺した。どこからか笑い声が聞こえる。振り返るとあのキンギたちがいた。あの鏡はキンギたちがわざと置いたものなのか。自分の顔が歪むのが分かた。笑い声がこだまする。
「おーい、どうしたんだい奴隷ちん? そんなとこでサボてち駄目だろうがおい」
 キンギの飛び出た口と目が、わたしの背中を舐めるようにさすた。体が震えるのを止めることができなかた。
「おいおいこいつ、おまえの言葉に感動して泣いちまてるぜ」
 笑い声の渦のなか。どうして。どうしてなの。どうしてこんな体に生まれたの。どうしてわたしはヒレを持ていないの。どうしてわたしには二本の手があるの。どうして二本の足があるの。どうして。
 どうしてヒトはこんなにも下等なの。
「おいお前たち! なにをしている!」
 偶然通りかかたキンギの長官が、声を張り上げた。
 太たキンギたちはうろたえるように口をぱくぱく動かす。
 わたしは顔を上げた。
「道具を粗末にするな!」
 長官は生真面目にそう怒鳴りつけた。
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