第10回 てきすとぽい杯〈平日開催〉
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滅亡の日
投稿時刻 : 2013.10.18 23:28 最終更新 : 2013.10.18 23:39
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滅亡の日
伊守 梟(冬雨)


 その臭いが死体から出ているものだと知たとき、僕は戦慄を覚えた。
 僕は、地球最後の人間になてしまた。

 人類が滅亡の危機に瀕したのはある突然の出来事からだた。空から何億もの生命体が地球にやてきて、人類を虐殺した。いや、それは狩りだた。彼らはヒトという生き物を獲物として狩りを始めたのだ。
 もはや人類は滅亡するしかない。たとえば僕が両性具有だとか、人類以外の動物と交尾として子をもうけられるとか、言い方はともかく、特殊な生命体であれば望みはある。もちろん、その子が人類と呼べるものであるかどうかは別にして。
 しかし、僕が自然死するまで生き延びる可能性は残ている。死ぬまで逃げのびればいい。どんな形であれ、死ぬまで奴らに見つからなければそれでいい。
 運が良ければその可能性はある。

 ***

 僕はため息をつく。ありきたりのストーリーだ。いわゆるB級映画というヤツか。こんな予告編で、「全米が震撼した」などと言われても、とても観に行く気にはならない。
「ねえ」
 隣に座る深苑が僕に声をかける。
 映画館はガラガラに空いていた。確かに公開してからひと月も経ているけれど、それなりに人気だたはずだし、ここまで空いているなんて予想だにしていなかた。でも、混雑しているよりはマシだ。僕は人混みが嫌いなのだ。
「潤くんがさ、人類最後の男になたらどうする?」
 なんというか、この予告編を観た9割ほどの人がしそうな質問だ。深苑もこの程度か。僕は天井を見上げる。
「さあね。今の人類が滅亡するなんてとても思えないけど」
 僕は3分の1ほど真剣に考えて答える。
 人類は増えすぎた。ちとした街に住んでいると世の中に人の姿が見えない場所なんてあるのか、と思えるくらいだ。70億人だ。正直に言てその半分くらいでもいいような気がする。
「相変わらずだねえ。私はひとりなんてやだな。潤くんと一緒がいい」
 フルムは他の映画の予告編を映し出している。深苑はポプコーンを食べ、僕はアイスコーヒーを飲む。
そんな甘たれた言葉に惹かれるのはきと脳がイカれている。ガキじあるまいし。
「うめやふやせやで新たな世界のイブにでもなるつもりか?」
 僕は苦笑する。無理やり笑たものだから、頬の筋肉が攣りそうになる。
「そう、で、潤くんがアダム。き。ヤラシイね」
 深苑は顔を赤くする。僕は喉の奥で二度目のため息をつく。こんな女との間の子供なんて、早々に野垂れ死にしそうだ。いや、ある意味子孫繁栄につながるのか?
 僕は聞こえなかたふりをしてスクリーンを見つめる。映画のオープニングが始まている。深苑はこころなしか肩を落として、僕の視線の先を同じように見つめた。
 やがて本編が始まる。主演の俳優がホテルのバーで高そうな酒を飲んでいるシーンを観ながら、僕はうつらうつらとしていた。

 ***

 魚が発酵したときのような不快な臭いで僕は目を覚ます。その臭いが死体から出ているものだと知たとき、僕は戦慄を覚えた。
 映画館はその姿を消していた。その残骸のようなものはある。何に吹き飛ばされたようだ。
 となりには深苑がいる。人の形はしていないが、おそらく深苑だろう。僕が誕生日にプレゼントしたネクレスが床に落ちている。
 彼女がこんな状態なのになぜ僕は無事なのか、僕自身がわからない。

 街は、廃墟と化している。
 僕の知らない生命体が空を舞ている。
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