タイトル未定(仮)
*舞台背景*
日本と欧米の文化が(住所的な意味で)入り乱れたような架空の舞台。現代。
描写不足のような真
っ白な背景を個人的に推したい(後述)。
*ストーリー*
使用キーワード:「手帳」
ジャンル:なんちゃってミステリ
■簡単なあらすじ
男は奇妙な手帳を拾う。手帳には、暗号らしきものが書かれていた。答えが気になった男は、暗号を解いてゆく。その答えはある場所を指していた。そこで待ち受けていた者は、手帳の落とし主だという、「作者」だった。
■詳細なあらすじ
〈一〉
男は道端で手帳を拾う。誰かが落としたようだ。奇抜な表紙が目立つ。持ち主がわかるなら届けてやろうか、と気まぐれな善意が湧いて、手帳を開いた。しかし持ち主の情報は記されておらず、代わりに、目を引くことが数ページにわたって記述されていた。
“【極秘】以下の場所行くこと!”
絶対に見落とされないような、明るい文字で書かれたその文の次に、以下のようなものが書かれてあった。それぞれ1、2、3の番号がふられている。
1…星の記号(☆)と、その横に「-a」。さらにその右横には逆さまのティーカップが描かれており、同じように「a→e」と書かれている。
2…「KMWAQ」という文字列。
3…「(){主婦の会に030人の人が集まったが、内03人は男だった。主夫だからである。では主婦の会に集まった女性は何人か。ただし0は不要である。}」という文章。
暗号のようだ。男はそれに興味を持ち、どうせ落とし主が分からないのなら貰ってやろうと考える。さきほどの善意はいつの間にか霧散していた。
〈二〉
まず、1の暗号は簡単だった。「-a」や「a→e」というのがあからさまなヒントになっている。男は手帳に、star teaと書き込んだ。それぞれ星と茶を意味する英単語だ。そして「-a」つまり「マイナスa」であるのだから、starからaを取ってstr、「a→e」であるから、teaをteeとする。繋げるとstrtee。このままではまだ意味不明だが、ティーカップは逆さになっているのだから、teeの部分も逆さにして、つまり逆に並べて、eetだ。したがってstreet。1の答えはstreet、“道”だ。
男は得意になって早速2も解こうとする。しかしそこへ、中年女性が話しかけてきた。
女性は、手帳を凝視している。奇抜な表紙だからか、それとも、この手帳に見覚えがあるのか。ちっ。せっかく楽しくなってきたところなのに、まさか持ち主が現れたのだろうか。
しかし、彼女の様子を見る限り、違うようだ。「よ、よこしなさいよ」おどおどと汗を流しながら手を突き出す中年女性は、エコバックを肘にかけていた。
男は逃げた。走って逃げる。動き出した直後に妙な罪悪感が込み上げたが、男は今更足をとめるようなことはしなかった。彼女はうるさく悪態をついているが、追いかけてはこない。
男は2を解き始めた。KMWAQ。くむわく……? 無理矢理読んだところで意味が分からない。さきほど走ったため息がはずむ。心臓がまるで飛び跳ねているようだ。飛び跳ねる……そうだ、飛び跳ねればいいのだ。典型的なシーザー暗号じゃないか。提示されている数字は、特に見当たらないが、もしかしてこの2というのがそのままヒントになっているのだろうか……ビンゴ。KMWAQそれぞれのアルファベットを、2文字分、飛び跳ねるように、上にずらす。Kならアルファベット順で2つ上のI、MならK、WならU……。全部で“IKUYO”だ。
※ABCDEFGHIJKLMNOPQRSTUVWXYZ
(右に2つずらすと、たとえばCの場合Aになる)
1の答えがstreetなのだから、このIKUYOというのは道の名前だろう。というかこれなら知っている。幾夜(いくよ)通りだ。少し遠いが、場面転換をすれば一秒とかからない。
〈三〉
3の問題は、最後ということでサービス問題なのだろう。30引く3。小学一年生の問題だ。答えは27。
1、2、3の答えを合わせると、
street IKUYO 27
幾夜通り27番地ってことになる。
さっそく行ってみよう。
しかし、幾夜通りはさほど長くはなく、27番地は存在しなかった。
おれはもう一度3を読み返す。
030人……03人……そうか、なぜ気付かなかったんだろう。これとてそう難しい問題ではなかったというのに。
なぜわざわざ頭に0をつけるのか。C言語などでは頭に0がついている数字は8進数のことだ。この文章に出てくる数字は8進数だったのだ。
「0は不要である」という但し書きは、このヒントだったのか。8進数の30を10進数に直したら、24になる。だからあの文章題の答えは、24引く3で、“21”だったのだ。
幾夜通り21番地は、実在している。
しかし、21番地のどこに行けばいいのだ。男は考え、もう一度手帳を見る。
street IKUYO 21
と男のメモ書きが目に入るが、その表記に、男は強い違和感を覚えた。
つーかあれじゃね? この通りの表記って普通逆じゃね? そう思ったのだ。
street IKUYO 21 ではなく、普通は
21 IKUYO street だろう。
もし、これもまた暗号であるのだとしたら?
あっ、そうか。男は21番地であたりを見渡す。
それは、すぐに見つかった。
逆にするのだ。だから、
IKUYOをOYUKIにするのだ。
目に映るは、「お雪」というこじゃれた喫茶店の看板。
男は一目散に入る。
「おゆき」のなかには、テーブルがいくつも並んでいる。それぞれ、番号がふられていた。テーブルは21個もない。けれど12個はあった。
12番テーブルに向かう。
「おめでとう。きみが一番乗りだ」
そこに座っていたのは、第四の壁を破ってやってきた、「作者」なる者だった。あるいは「読者」だったのかもしれない。
「きみは主人公になる権利を獲得した」そいつは言う。手帳はそいつのネタ帳なのだと。
こうして男は、主人公になった。
*その他*
・暗号ネタ、被っちゃいました。すみません。
・一人称でも三人称でも大丈夫だと思います。
・前述の真っ白な背景云々ですが、意図的に背景描写を避けて、まるで白紙原稿用紙のうえのような、オチと合わせて不安定な空間を演出するのも面白いかなと思ったりしました。
・途中出てきた中年女性は、主人公の座を狙う人物、というつもりで出しました。文字数や展開の余裕あるなしに合わせて、書き込むなり、抹消するなりできるかと。
・余談ですけど、小松左京の作品に「題未定」というのがありましたね。
以上