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パスワードは「愛してる」
投稿時刻 : 2013.12.23 00:42
字数 : 6457
5
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コメント
2013.12.23 15:53

※ このコメントには、作品の展開や結末に関する内容が含まれています。
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Twitterの字数制限は如何ともしがたく、こちらに書かせていただきますね。
 主人公の幸平さんは奥さんの希和さんと「些細な」理由からの喧嘩の末に、希和さんに出て行かれてしまいます。何度も繰り返されたことで、十日もすれば帰って来るだろうとたかをくくってはいるものの、日常生活のさまざまな面で不便を感じ始める。そこへ訪れたアンドロイドのレンタル会社のセールスマンに勧められるまま、希和さん風にカスタマイズされたアンドロイドを格安でレンタルすることになります。そしてやってきたアンドロイドは外見と声はよく似ていたものの、振る舞いはより公平さん好みにアレンジされていました。戸惑いながらも音声認証のパスワード「愛してる」を口にして、同居生活が始まります。料理の腕はもちろん、生活全般に亙って文句も言わず働くアンドロイドに幸平さんはすっかり満足します。会社から帰宅するたびに認証パスワードの「愛してる」を告げる毎日に満足した幸平さんは、家出中の希和さんへ連絡を取ることも忘れてしまいます。
 そんなある日、早めの帰宅をして必要もないのに「愛してる」と囁き、満ち足りた夕餉を摂っている最中に、本物の希和さんが現われます。希和さんよりアンドロイドの方がいい、という幸平さんの言葉に逆上した希和さんはアンドロイドを張り倒します。転倒の衝撃で変調をきたし、パスワード入力を求めるアンドロイドに「愛してる」と繰り返す幸平さん。その姿に唖然とした希和さんは家を出て行きます。既に機能停止したアンドロイドを抱きかかえ、幸平さんはそれでも「愛してる」と繰り返します。「君が動かなくなっても、ずっと」
 人間とアンドロイドの間に愛は成立するか、といえば成立しないでしょう。アンドロイドは人格も自我もない、内面のない存在です。幸平さんがアンドロイドに満足し「愛してる」と連呼するに至るのは、幸平さんが希和さんに対して内面を求めていないからです。そんな幸平さんに我慢がならず、希和さんは何度も喧嘩をし、家を飛び出しますが、幸平さんには一過性のヒステリーくらいにしか思われません。少なくとも、希和さんにとって、幸平さんへの我慢の限界まではさほど遠くない状態だと思われます。カスタマイズされることで幸平さんにとって心地良い行動を取るようにプログラミングされたアンドロイドは、あくまでも幸平さん自身の写し絵です。そのアンドロイドを前にして「満足している」「彼女がいい」と言う幸平さん。もしここで怒りが湧くならアンドロイドではなく、自分のことしか考えられない幸平さんに対してだと思います。でも実際には怒りというよりも気持ちが一瞬にして冷めてしまうでしょう。自分がこの人に対してやってきたことは全部、虚しいことだったんだ、という思いとともに。
 ここでは希和さんがアンドロイドを壊すことで破局を迎えますが、黙って出て行ったとしても遠からず破滅するような布石が打たれていましたね。たとえば、希和さんに遠慮して家の中では禁煙していたのが、平気で煙草を吸うようになっています。ベランダでの喫煙を強いられていれば本数は少なめになったでしょうが。さらに、朝からたっぷりとした食事にお弁当まで。希和さんがなぜ少なめの食事にしていたのか。幸平さんには手抜きとしか映っていませんでしたが。料理もアンドロイドの作るものは「おいしい」と書かれています。確かに脂や塩分、香辛料をふんだんに使えばおいしいものはできあがります。そうしなかった希和さんの気持ちは幸平さんには分かりません。年齢的にもおそらくは30歳代で、さまざまな要素が幸平さんに降りかかって来そうです。希和さんの気持ちを忖度することなく、自分の満足の身を優先する幸平さんは遠からず自滅するでしょう。でも、この作品では逆上した希和さんによって悲劇が起こされた形になっています。これでは希和さんが完全に悪者になってしまいます。そのあたりに違和感を覚える方もいらっしゃるのではないかな、と。
 一日千円のレンタル料でアンドロイドを使うことと、生活費を入れることで妻を好きに使うこととがあえて同列に扱われているのがアイロニーが利いていて面白いと思いました。幸平さんから希和さんへの愛情なり思いやりは、幸平さん的には生活費によって代替できているという感覚なのでしょう。結婚後、希和さんは変わった、と幸平さんは思います。でも、希和さんも幸平さんに対して同じことを思っています。アンドロイドを抱きかかえて泣き崩れる夫をしり目に家を飛び出した希和さんは、どこへ行けばいいのでしょうか?
 長文&乱文、失礼しました。なにとぞご寛恕のほどを。
2013.12.28 20:07

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てっきり、アンドロイドと勘違いするなりなんなりして妻に「愛してる」と言って言葉パワーでハッピーエンド!みたいなのを予想して読んでいました。ですのでその真逆を突くラストで、良い読後感を味わえましたね。「愛してる」は関係修復のパスワードではなくて、破壊のパスワードでしたか。タイトルから感じる雰囲気を、見事にひっくり返して見せた作品です。
中身のない人形を相手にしているときと、複雑な中身をもった人間を相手にするのでは、自身の感じる自由度はだいぶ異なるでしょうね。そのうえその人形は、無表情なのではなくて、思い通りの反応をしてくれる。中身がないのに、中身があるようにふるまってくれる。そのうえ、幸平はアンドロイドに「愛してる」と毎日言い続けていたのですから、その言葉パワーというか、自身への刷り込みもあったはず。自身の殻に依存してしまった幸平は、結果的に人間関係を捨ててしまいますが、そのとき捨てられた人間は妻だけではなく、会社や近所やセールスマンやすべてとの関係がこのとき壊れてしまったのだろうなぁ、と思いました。
永坂さんのえがかれるアンドロイド作品は、人間性の暗喩っぽかったりで、「人間」を書いている、純文学とSF的要素がうまく融和している印象があります。スリップストリームと言えば近いかも。好みな作風です。
執筆おつかれさまでした。
エンタメ作品には毒も必要だと思うのだがー。

永坂ちんの作品には、それが適度に含まれることがあるよねー。

リーダビリティを高めつつ、読者にほどよく圧を与えて、この作品もその点が上手くいっている気がするー。

まさーに、観客を沸かすことを考えたマスクマン。

ラストの展開がアレに似ていると自分で言っていたけど、心理的にはどっちかっちゅーと真逆かもねー。

最初、タイトルを目にしたとき、ちとヒネリがない印象だったのだけど、そういうことかって読んでから思ったー。

そういう意味では、やられたって感じだじょ。
2013.12.31 10:41

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皮肉が効いていて楽しかったです。希和をどうしても「のりかず」と読んでしまい┌(┌^o^)┐ホモォ...とか思ってしまいました。
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