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第12回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・紅〉
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錆色の女
 投稿時刻 : 2013.12.14 23:57
 字数 : 673
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錆色の女
永坂暖日


 喉を切り裂かれた標的の手が空しく宙を掴み、前のめりに倒れていく。地面に倒れたそれの首元に手を当てて脈がないのを確かめた。死んでいる。
 指先についた血を髪に擦り付けた。髪の錆色をさらに深い色にするために。いつから始めたのか分からない、それは彼女の癖だた。
 夜更けの通りに今は誰の姿もないが、巡回の兵士がいつやて来るか知れない。それに、吐く息が白くなる夜だ。ささと家に帰て、温かい寝台に潜り込みたかた。

  ○

「おかえり」
 家に帰ると、蝋燭の小さな炎と、男の声が出迎えた。
「ただいま」
 こんな夜中になても男が起きて待ていたのが嬉しくて、飛びつくように広い背中を抱きしめた。慣れ親しんだ暖かさが心地よい。
「うまくいたか?」
「当たり前でし。誰が、あたしを育てたと思ているの?」
 彼女の顔をのぞき込む髭面に唇を尖らせる。男は忍び笑いすると、よくやたと言て、彼女の小さな唇に自分のそれを押し当てた。
――また一段と染またな」
 おもむろに唇を離し、男が錆色の髪を一房すくう。
 男と出会た時、この髪は銀色に輝いていた。だけど他人に血を流させているうちに染まり、錆色になていた。白銀の髪の方が良かただろうと男は時々惜しむように言うが、彼女はこの色が好きだた。
 男に教え込まれた技で誰かの皮膚を裂き、流れた血でこの色になたのならそれで構わない。彼女の何もかもを、男によて染め変えられるのは、身も心も彼のものになれたようで本望ですらある。
「もと深い色にしてよ」
 今度は彼女の方から、ねだるように唇を合わせる。
 朝までは遠く、口付けだけではまだ寒かた。
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