第12回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・紅〉
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投稿時刻 : 2013.12.14 23:07
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司令@一字でも前へ


喉の奥で炎が焼ける。
血は乾き、風を受ける目は罅割れる。
脚が錆びついたように軋み、重い。
それでも私は足を止めるわけにはいかない。
道なき道をひた走り、
木々を掻き分け、草花を踏み散らして、
荒ぶる一陣の疾風となりて私は駆ける。

私が運ぶのは物ではない。
それは希望であり、誇りであり、力強い言葉だ。
伝えねばならぬ。届けねばならぬ。
これまでに斃れた多くの仲間たちのためにも。

野を行き、山を越え、川を渡る。
目まぐるしく変わる景色を追い抜いて、私は駆けた。
やがて街が見えてくる。
街の入り口には人々が集まている。
人々は私たちが見えるなり、大いにどよめいた。
私は街に滑り込む。ぼろぼろになり、長らく静止を忘れていた足をようやく止めた。
群集は不安そうな顔で私たちを眺めている。
私は最後の力を振り絞り、大きくのけぞた。

「我らの勝ちだ!」

言葉は確かに届けられた。
歓声が上がる。私は膝を折る。
駆け寄る者はいない。
言葉を伝えた私の主人は、皆に胴上げをされている。
主人の笑顔を仰ぎ見ながら、私は静かに目を閉じた。
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