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君の名前を教えてほしい
「リ
ィナ、起きてる?」
聞こえてきた母の声に、私はベッドの中で目を覚ました。なかなか寝付けないので本を読んでいたが、いつの間にか眠っていたらしい。
唱えていた「薄灯」の魔術は跡形もなく消えていて、カーテン越しに差し込む陽の光が部屋を明るく照らしている。
「リィナ?」
部屋の外から、心配そうな母の声が聞こえてくる。
「大丈夫。今、起きたところ」
答えると、扉の向こうから母がホッとする気配が伝わってきた。
「それなら早くいらっしゃい。朝ごはん、できているわよ」
「うん。準備してから行く」
私はベッドから出ると、枕元で開いたままになっていた本を本棚に戻した。ふと見ると、亡くなった祖母の日記帳が目に付き、慌てて本棚の奥に隠す。遺品整理を手伝った時に黙って持ち出したものだ。母には見つかりたくない。
「さてと」
私は記録紙を取り出すと、自分の両腕にはめられた腕輪を確認した。表面に複雑な文様が描かれた銀色の腕輪には、丸い石がいくつかはめ込まれている。元々は白だったが、今は濃いピンク色。これが赤くなると新しい石に交換しなければならない。
(これなら、まだ大丈夫。状態も異常なし)
次は探査の呪文を唱え、部屋の中に張り巡らされた結界の状態を確認する。
(小さな綻びもない。異常なし)
他に睡眠時間や体調、気分など三十ほどの項目をすべて埋め、私は一息ついた。手間はかかるが十歳の時から毎朝ずっとやってきたことだ。もうすっかり慣れている。
書き終えた記録紙をカバンに入れると、私は着替えて自分の部屋を出た。
「あら、また制服を着ていくの?」
食堂に行くと、テーブルに朝食を並べていた母が少し呆れたように言った。
今日は学校が休みだ。休みの日にまで制服を着る義務はないけれど、無難なデザインである紺色のローブはどこに行くのにも結構便利だ。
「今日はお祖父様の家に行くだけでしょう? 身内なんだから普段着でいいのよ」
そうは言っても、祖父の家はうちと違って大きなお屋敷だ。使用人だって何人かいる。
しかも遊びに行くわけではない。魔力の制御の練習に行くのだ。きちんとした格好をしなければ落ち着かない。それに、
「だって、この制服を着られるのもあと少しなんだもの」
私は、もうすぐ十六歳になる。
十六歳になったら卒業試験を受けるのが、私が通う特別学校の決まりだ。魔力が弱い子たちが通う普通の学校はいっせいに春に始まり全員そろって卒業するらしいが、生まれつき魔力が強い私は行ったことがなかった。
(普通の学校、か……)
テーブルに着きながら、私は小さくため息をつく。
今の学校に不満があるわけではないし、魔力の使い方を教えてくれる特別学校は私には必要な場所だ。けれど、大勢で勉強したり、勉強以外の行事がたくさんあるという話を聞くと行ってみたくなる。
ただ、それは私にはそれは許されないことだ。祖母の日記を読んでしまった今では、十分に理解している……。
「リィナ、どうしたの? 髪の色が安定していないわよ」
お茶を持ってきてくれた母が、私の髪にそっと触れた。視界の隅に見えた私の髪は、赤色から緋色へ、緋色から赤色へと微妙に変化している。
髪は魔力が宿りやすい場所の一つだ。色が安定しないのは、魔力がきちんと制御できていない証。子供のうちはよくあることだと言われているが、母が心配するのも無理はない。
「ここのところ安定してないけれど、どこか具合でも悪いの?」
確かに最近よく眠れないが、その原因はすでにわかっている。ただ、それを母に言うことはできない。
私は黙ったまま朝食を食べ終えると、玄関に向かった。
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
私を見送る母は、いつものようにやさしく微笑んでいた。その笑顔に、つい気がゆるんだ。固く結んでいたはずの口が自然と動く。
「ねぇ、母さん」
「なあに?」
「私、本当に「施設」に行かなくてもいいの?」
母の顔がさっと強張った。私はハッとして背を向けた。
「ごめん。行ってくる!」
「リィナ!」
母が何か言うのが聞こえたが、私は逃げるように走り出していた。
――施設。
それがどんな場所か、正確には知らない。大人は「魔力の制御を学ぶ場所」だと言っているが、それだけなら私が通っている特別学校で十分のはず。
私のクラス――主に魔術の制御を学ぶ子供たちの間では「魔力を制御できない人を閉じ込める場所」ではないかと噂されている。十六歳の卒業試験に合格しなければ、その施設に連れていかれるのではないかと。
生まれつき魔力が強い私は、感情が高ぶると小さな暴走を何度か起こしていた。
だから施設の噂を耳にする度に不安な気持ちになっていたが、一方では自分は大丈夫だとも思っていた。
特別学校の理事長である祖父の元で入学前から魔力の扱い方は学んできたし、設備が整った祖父の屋敷で三日に一度魔力の制御を練習している。
そして、父は魔法具の研究者だ。私が両腕につけている魔力抑制の腕輪は、父が特別に作ってくれた物である。
私の部屋も特別製で、万が一魔力が暴走しても被害が小さくなるよう「防壁」や「消魔」などの呪式が施されている。
家族や道具に助けられているが、そのおかげでこのままずっと普通の暮らしができるのだと思っていた。
でも、違った。
私は施設に入れられてもおかしくないほど危険な存在で、しかも罪人だった。
私は人を殺していたのだ。
十年以上前に、自分の大叔父を。
私がそれを知ったのは、亡くなった祖母の遺品整理を手伝った時だ。
頼まれて棚の中身を取り出していたら、奥から厚い冊子が出てきた。何だろうとパラパラめくってみると祖母の字が並んでいる。どうやら日記らしい。
勝手に見るのは悪いと思い閉じようとした時、ふと自分の名前が目についた。思わず読んで私は愕然とした。
そこには、祖母の兄――私にとっての大叔父が死んだのは、私が原因だと書かれていたのだ。
大叔父が亡くなったのは、私が四歳の時だ。私が二歳の時に大きな事故に遭い、それ以降寝たきりとなっていた。
顔は忘れてしまったが、母に連れられてお見舞いに行く度に、包帯だらけの手で私の頭をやさしくなでてくれたけことはうっすらと覚えている。
月命日には欠かさずお墓参りに行くので、気になって親たちに大叔父について何度か聞いてみたことはある。
魔法具の研究者だったこと、祖父が理事長をしている特別学校はもともとは大叔父が建てたこと、ずっと独身だったこと……そんな話は教えてくれたが、大叔父が遭った事故については誰も話してくれなかった。私が傷つくと思って秘密にしていたのだ。
魔力は感情に引きずられやすい。だから感情が上手くコントロールできない子達のうちは暴走を起こすことは時々ある。けれど子供の魔力は弱いので、大したことにならないのが普通だ。
でも、私は違った。生まれつき魔力が強い私は大きな暴走を引き起こしたのだ。
祖母の日記によると、それは、私が母に連れられて祖父の屋敷に遊びに来ていた時に起きた。庭から大きな音が聞こえたので慌てて駆けつけてみると、草木があちこちで焼け焦げており、その中心で泣き叫ぶ私を大叔父が抱えるようにして倒れていた。側には黒焦げの野犬の死体があり、襲われた私が恐怖から魔力を暴走させたらしい。私が無傷で済んだのは大叔父のお陰だと書いてあった。
代わりに大叔父は大ケガを負った。それが原因で寝たきりとなり、二年後に他界した。
仕方がない状況だったのかもしれない。
でも、私のせいで大叔父は死んだ。
大叔父を死なせた私が、このまま普通に暮らし続けてもいいのだろうか?
そんな考えが、いつの間にか私の頭から離れなくなっていた。2 / 3
祖父の屋敷にはいつも裏門から入る。そうすると祖母が遺した薬草園の前を通るからだ。植えられているのは薬草ばかりだが、きれいな花を咲かせるものも多く、眺めていると不思議と心が落ち着いた。
ただ、薬草園は塀に囲まれている。中を覗くことができるのは、入口の木戸からだけだ。格子状の扉には鍵はかかっていない。けれど、毒草も混ざっているので入らないようにと祖父から言われており、格子状の木戸越しに薬草園を眺めることが多かった。
今日もいつものように木戸の前に行こうとして、私は足を止めた。
扉のすぐ向こう側――薬草園の中に、人がいた。黒いローブを着た、白い髪の少年だ。
(……誰?)
知らない顔だ。歳は私と同じくらい。細かい紋様が入ったローブを着ているので新しい使用人ということはないだろう。親戚でもないし、うちの学校の生徒でもないはずだ。
彼の髪は白色。銀や白銀ではなく真っ白だ。白色で現れるような魔力を髪に宿している人物に心当たりはない。
「あなた、そんなところで何をしているの」
無断で薬草園に入り込んだ相手だ。口調が自然とキツくなる。だが、振り返った少年は怪訝そうな顔をした。
「君こそ誰だ。ここは子供が勝手に入ってきていい場所じゃないぞ」
偉そうな口の聞き方に、私はカチンとする。
「勝手に入っているのはそっちでしょ。私はこの屋敷の主――ヴルカーンの孫よ」
「ヴルカーン? 誰だ、そいつは。だいたい屋敷の主の孫だなんて、 嘘も大概にするんだな」
「何ですって!」
私の中で、魔力がモゾリと動いた。いけないと思いつつも、腹立たしさが邪魔をして、うまく魔力が抑えられない。髪の色が赤から橙へと変わっていくのが自分でもわかる。
私に何が起きているのか、木戸の向こうにいる少年にもわかったはずだ。だが、
「へえ、僕とやる気かい?」
馬鹿にしたような笑みにカッとなり、魔力が弾けそうになった時、
「リィナ様!」
声にふり返ると、メイドのアンナがこちらに駆け寄ってきた。
「こちらでしたか。いつもより遅いので心配しましたわ。ヴルカーン様もお待ちですよ」
祖父の名前を出され、私はハッとした。思っていたよりも時間が過ぎていたらしい。
「さあ、行きますよ」
「待って! 今ここに……」
無断で入ってきた人がいる、と言おうとして、私は言葉を失った。
見ると格子状の木戸の向こうには誰もいなかった。慌てて覗き込むが、白髪の少年の姿はどこにもない。近くに隠れられるような場所も見当たらない。
(……幻? まさか、でも……)
茫然とする私に、アンナが声をかける。
「薬草園がどうかしたのですか?」
「えっと、その……あ! ねえ、アンナ。今日ここに来ているのは私だけ?」
「はい。お客様の予定はございませんわ」
「なら、新しい使用人を雇ったりしていない? 例えば庭師とか、薬草に詳しい人とか……」
もしかすると、祖母の代わりに薬草園の世話をする魔術師を雇ったのかもしれないと考えたが、アンナは首を横に振った。
「いいえ。そういう話は聞いておりませんが」
それなら「彼」は何だったのだろう? 本当にいたのか、それとも夢だったのか……。
手を引かれながら私は何度か薬草園をふり返ったが、誰の姿も見つけられなかった。
三日後、私はいつもより早く祖父の屋敷を訪れた。
理由はもちろんあの少年だ。相手が幻だとはどうしても思えない以上、何か身を隠す仕掛けがあったに違いない。まだ残っているかどうかはわからないが、何か手がかりくらいはあるはずだ。
意気込んで薬草園に行くと、格子状の木戸の向こうに白髪の少年の姿があった。
やはり幻などではなかったのだ。
私は急いで木戸に駆け寄った。足音に気づいたのか、彼も私を見る。そして、
「やあ。また会えたな」
口元に笑みを浮かべる少年に、私は面食らった。この前はずいぶん偉そうな態度だったので、向こうからあいさつをしてくるとは思わなかった。何かの罠ではないかという気さえしてくる。
私の戸惑いを気にした様子もなく、彼は口を開いた。
「僕はクルーク・ノイ・フォアリュッケン。この名前に聞き覚えはあるか?」
「え?」
私は驚いて彼を見る。
「僕の名前だ。君は僕を知っているか?」
「知らないけど……それ、あなたの真名?」
「ああ、そうだが」
当然のように言う彼に、私は驚きを通り越して呆れ果てた。
「不用心ね。知らない相手に真名を教えるなんて。私が悪用したらどうするつもりよ」
魔術師にとって、真名――自分の本当の名前は大切なものだ。真名を使えば相手を操ったり命を奪うことも簡単だ。だから普段は愛称で呼び合うのが普通である。母が私を呼ぶ時さえも、真名ではなく愛称の「リィナ」を使っている。彼もそれは知っているはず……。
だが、クルークと名乗った少年は急にお腹を抱えて笑い始めた。
「な、何がおかしいのよ!」
「そのセリフ、久しぶりに聞いたと思ってな。それに君は本当に僕を知らないようだ」
「あなた、そんなに有名人なの?」
皮肉を込めて聞いたつもりだったが、クルークはあっさりと頷いた。
「そうさ。僕は「魔術が使えない魔術師」だ。魔術に携わる者はだいたい僕の体質のことを知っている」
「魔術が、使えない?」
「魔術を吸収すると言った方がいいかな。魔力そのものや道具に付与された魔術はそうでもないが、呪文などで具現化された魔術の多くは僕の体に吸収される。だから僕の側で魔術を使おうとしても発動しないし、魔術によって傷つけられることもない……もっとも、そのせいで僕自身も魔術が使えないけどな」
ところで、とクルークはいったん言葉を切って私をじっと見つめた。
「今日は何曜日だっけ?」
「? メルクリウスでしょ」
「じゃあ何月何日?」
「ノウェム月の7日じゃないの」
日にちはともかく、どうして月まで聞くのかと不思議に思っていると、
「何年の?」
「…………は?」
からかわれているのかと思ったが、クルークの目は真剣そのものだ。恐る恐る答えると、
「合っているな。念のため聞くけど、五年後の今日は何曜日かわかるかい?」
「そんなの、暦も見ないでわかるわけないじゃないの!」
「僕はわかるよ。そういう人間もいる。でも、君は違うみたいだ。なるほど。ちょうど六十年後か」
「六十年後?」
「そう。君がいるのは、僕にとって六十年後の世界だ」
一瞬、何を言っているのか理解できなかった。
私が五十年後の世界いる?
つまり、クルークは五十年前の人? この木戸の向こう側は過去につながっているとでも言うのか?
「おそらく父さんが屋敷で今やっている実験の影響だろうな。部分的に増幅された魔力が空間を、いや時間を歪めたのか……」
クルークは独り納得したように呟き出す。
確かに別の時代の人なら、同じ屋敷の関係者でありながら、私が彼を知らなくても、そして彼が私を知らなくても不思議ではない。
だが、そんな話、信じられるわけがない。
「いい加減なことを言わないで!」
私は一歩前に踏み出すと、木戸に手をかけた。格子状の戸を勢いよく開け、彼の頬を引っぱたくつもりだったが、
「えっ……?」
そこには、誰もいなかった。
扉を開けた瞬間、クルークの姿は消えていた。隠れる時間などなかったはずなのに。
私は思わず後退った。その拍子につまずいて尻餅をつく。
茫然とする私の目の前で、キィと音を立てて扉が閉まる。格子状の扉の向こうには、クルークの姿があった。
(まさか……)
彼がいるのは、本当に「今」ではないのか?
戸の向こうで、クルークがニヤリと笑った。
「僕が嘘をついているのではないと、ようやくわかったみたいだな」
「え?」
「この木戸を開けたんだろう? こっちから見える景色が急に動いたからね。そのぐらい聞かなくてもわかる。で、君は開けた木戸の向こうに誰もいなかったので、驚いて腰を抜かした……というところかな」
「ち、違うわよ! これはつまずいただけ!」
抗議するが、クルークの視線はすでに木戸に向けられていた。
「なるほど。この扉自体にも原因があるようだな。とりあえず何の木で作られているか調べて……」
クルークの声が急に聞こえなくなる。あれ、と思った瞬間、彼の姿は木戸の向こうから消えていた。
それから私は祖父の屋敷に行く度にクルークと会っていた。私が薬草園の前に行くと、彼は必ず木戸の向こうで待っていた。
最初は不思議に思っていたが、
「君はいつも同じ時間に来ているだろう? こっちも同じさ。父さんも毎日ほとんど同じ時間に実験をしている」
言われてみれば、そのとおりだった。
そして、クルークは私のいる時代のことを知りたがった。
「へえ。そっちには魔術師だけの学校があるのか」
「あなたの方にはないの?」
「私塾や魔術師協会に練習場はあるけれど、子供たちだけを集めて魔術を教えているところはないな。収容所とは別だろうし」
「収容所」という言葉に、私の気分は沈む。
そこは、私が二歳の時に入らなければならなかった場所であり、十六歳の試験に受からなければ行くかもしれない場所だ。
「……いいわね」
そんな言葉が、つい私の口からこぼれた。クルークが怪訝そうな顔をする。
「何がだ?」
「あなたの体質よ。魔術が使えないのがうらやましいわ」
魔術が発動しないのなら、きっと魔力が暴走することもない。つまり、誰かを傷つけたり命を奪ってしまうこともないはずだ。
「……だが、一族で魔術が使えないのは僕だけだ」
クルークの吐き捨てるような口調に、私は驚く。彼の感情的な言葉を聞いたのはこれが初めてだ。
「魔術が使えないのは、悪いことなの?」
「少なくとも僕の一族にとってはね。小さい頃から魔術の練習をする度に、お前はダメだ、何故できない、おかしいと散々言われ続けてきた。僕の体質がわかってからは、どうしてお前のような奴が生まれてきたんだと責められた。父さんの実験も俺の体質を何とかするためらしい」
無駄なことを、とクルークは自嘲的に笑う。
「どうせ僕は何をやっても魔術師にはなれやしない」
「……あなたは、魔術師になりたいの?」
不思議に思って聞いてみると、「さあね」とどこか投げやりな答えが返ってくる。私は思わず口を開いていた。
「魔術師が嫌なら他のものになればいいじゃないの。あなただったら何にでもなれるわ」
「何にでも?」
「そうよ。だから、あなたがうらやましい。私は、魔術師にしかなれないもの……」
試験に合格して魔術師になる。それが、私に課せられた道だ。高すぎる魔力を持って生まれた以上、他の道を選ぶことは許されない。
「……そうか。魔術師以外だったら、僕は何にでもなれるのか。そういう風には考えたことはなかったな……」
どこか遠くを見つめる彼が何を思ったのか。聞く前に、木戸の向こうからクルークの姿は消えていた。
「最近、ずいぶんと早く行くのね」
祖父の屋敷に出かけようとした時、母にそう声をかけられ私はドキリとした。クルークのことは誰にも話していなかった。過去の人と会っているなんて、母でも信じてくれないだろう。
「うん。友達のところに寄ってるから」