てきすとぽい
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輝き! プロット頂戴大賞
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〔 作品6 〕
君の名前を教えてほしい
(
三和すい
)
投稿時刻 : 2014.01.13 02:57
最終更新 : 2014.01.13 03:05
字数 : 10861
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2014/01/13 03:05:21
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2014/01/13 03:00:53
-
2014/01/13 02:57:42
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君の名前を教えてほしい
三和すい
「リ
ィ
ナ、起きてる?」
聞こえてきた母の声に、私はベ
ッ
ドの中で目を覚ました。なかなか寝付けないので本を読んでいたが、いつの間にか眠
っ
ていたらしい。
唱えていた「薄灯」の魔術は跡形もなく消えていて、カー
テン越しに差し込む陽の光が部屋を明るく照らしている。
「リ
ィ
ナ?」
部屋の外から、心配そうな母の声が聞こえてくる。
「大丈夫。今、起きたところ」
答えると、扉の向こうから母がホ
ッ
とする気配が伝わ
っ
てきた。
「それなら早くいら
っ
し
ゃ
い。朝ごはん、できているわよ」
「うん。準備してから行く」
私はベ
ッ
ドから出ると、枕元で開いたままにな
っ
ていた本を本棚に戻した。ふと見ると、亡くな
っ
た祖母の日記帳が目に付き、慌てて本棚の奥に隠す。遺品整理を手伝
っ
た時に黙
っ
て持ち出したものだ。母には見つかりたくない。
「さてと」
私は記録紙を取り出すと、自分の両腕にはめられた腕輪を確認した。表面に複雑な文様が描かれた銀色の腕輪には、丸い石がいくつかはめ込まれている。元々は白だ
っ
たが、今は濃いピンク色。これが赤くなると新しい石に交換しなければならない。
(これなら、まだ大丈夫。状態も異常なし)
次は探査の呪文を唱え、部屋の中に張り巡らされた結界の状態を確認する。
(小さな綻びもない。異常なし)
他に睡眠時間や体調、気分など三十ほどの項目をすべて埋め、私は一息ついた。手間はかかるが十歳の時から毎朝ず
っ
とや
っ
てきたことだ。もうす
っ
かり慣れている。
書き終えた記録紙をカバンに入れると、私は着替えて自分の部屋を出た。
「あら、また制服を着ていくの?」
食堂に行くと、テー
ブルに朝食を並べていた母が少し呆れたように言
っ
た。
今日は学校が休みだ。休みの日にまで制服を着る義務はないけれど、無難なデザインである紺色のロー
ブはどこに行くのにも結構便利だ。
「今日はお祖父様の家に行くだけでし
ょ
う? 身内なんだから普段着でいいのよ」
そうは言
っ
ても、祖父の家はうちと違
っ
て大きなお屋敷だ。使用人だ
っ
て何人かいる。
しかも遊びに行くわけではない。魔力の制御の練習に行くのだ。きちんとした格好をしなければ落ち着かない。それに、
「だ
っ
て、この制服を着られるのもあと少しなんだもの」
私は、もうすぐ十六歳になる。
十六歳にな
っ
たら卒業試験を受けるのが、私が通う特別学校の決まりだ。魔力が弱い子たちが通う普通の学校はい
っ
せいに春に始まり全員そろ
っ
て卒業するらしいが、生まれつき魔力が強い私は行
っ
たことがなか
っ
た。
(普通の学校、か
……
)
テー
ブルに着きながら、私は小さくため息をつく。
今の学校に不満があるわけではないし、魔力の使い方を教えてくれる特別学校は私には必要な場所だ。けれど、大勢で勉強したり、勉強以外の行事がたくさんあるという話を聞くと行
っ
てみたくなる。
ただ、それは私にはそれは許されないことだ。祖母の日記を読んでしま
っ
た今では、十分に理解している
……
。
「リ
ィ
ナ、どうしたの? 髪の色が安定していないわよ」
お茶を持
っ
てきてくれた母が、私の髪にそ
っ
と触れた。視界の隅に見えた私の髪は、赤色から緋色へ、緋色から赤色へと微妙に変化している。
髪は魔力が宿りやすい場所の一つだ。色が安定しないのは、魔力がきちんと制御できていない証。子供のうちはよくあることだと言われているが、母が心配するのも無理はない。
「ここのところ安定してないけれど、どこか具合でも悪いの?」
確かに最近よく眠れないが、その原因はすでにわか
っ
ている。ただ、それを母に言うことはできない。
私は黙
っ
たまま朝食を食べ終えると、玄関に向か
っ
た。
「行
っ
てら
っ
し
ゃ
い。気をつけてね」
私を見送る母は、いつものようにやさしく微笑んでいた。その笑顔に、つい気がゆるんだ。固く結んでいたはずの口が自然と動く。
「ね
ぇ
、母さん」
「なあに?」
「私、本当に「施設」に行かなくてもいいの?」
母の顔がさ
っ
と強張
っ
た。私はハ
ッ
として背を向けた。
「ごめん。行
っ
てくる!」
「リ
ィ
ナ!」
母が何か言うのが聞こえたが、私は逃げるように走り出していた。
――
施設。
それがどんな場所か、正確には知らない。大人は「魔力の制御を学ぶ場所」だと言
っ
ているが、それだけなら私が通
っ
ている特別学校で十分のはず。
私のクラス
――
主に魔術の制御を学ぶ子供たちの間では「魔力を制御できない人を閉じ込める場所」ではないかと噂されている。十六歳の卒業試験に合格しなければ、その施設に連れていかれるのではないかと。
生まれつき魔力が強い私は、感情が高ぶると小さな暴走を何度か起こしていた。
だから施設の噂を耳にする度に不安な気持ちにな
っ
ていたが、一方では自分は大丈夫だとも思
っ
ていた。
特別学校の理事長である祖父の元で入学前から魔力の扱い方は学んできたし、設備が整
っ
た祖父の屋敷で三日に一度魔力の制御を練習している。
そして、父は魔法具の研究者だ。私が両腕につけている魔力抑制の腕輪は、父が特別に作
っ
てくれた物である。
私の部屋も特別製で、万が一魔力が暴走しても被害が小さくなるよう「防壁」や「消魔」などの呪式が施されている。
家族や道具に助けられているが、そのおかげでこのままず
っ
と普通の暮らしができるのだと思
っ
ていた。
でも、違
っ
た。
私は施設に入れられてもおかしくないほど危険な存在で、しかも罪人だ
っ
た。
私は人を殺していたのだ。
十年以上前に、自分の大叔父を。
私がそれを知
っ
たのは、亡くな
っ
た祖母の遺品整理を手伝
っ
た時だ。
頼まれて棚の中身を取り出していたら、奥から厚い冊子が出てきた。何だろうとパラパラめく
っ
てみると祖母の字が並んでいる。どうやら日記らしい。
勝手に見るのは悪いと思い閉じようとした時、ふと自分の名前が目についた。思わず読んで私は愕然とした。
そこには、祖母の兄
――
私にと
っ
ての大叔父が死んだのは、私が原因だと書かれていたのだ。
大叔父が亡くな
っ
たのは、私が四歳の時だ。私が二歳の時に大きな事故に遭い、それ以降寝たきりとな
っ
ていた。
顔は忘れてしま
っ
たが、母に連れられてお見舞いに行く度に、包帯だらけの手で私の頭をやさしくなでてくれたけことはう
っ
すらと覚えている。
月命日には欠かさずお墓参りに行くので、気にな
っ
て親たちに大叔父について何度か聞いてみたことはある。
魔法具の研究者だ
っ
たこと、祖父が理事長をしている特別学校はもともとは大叔父が建てたこと、ず
っ
と独身だ
っ
たこと
……
そんな話は教えてくれたが、大叔父が遭
っ
た事故については誰も話してくれなか
っ
た。私が傷つくと思
っ
て秘密にしていたのだ。
魔力は感情に引きずられやすい。だから感情が上手くコントロー
ルできない子達のうちは暴走を起こすことは時々ある。けれど子供の魔力は弱いので、大したことにならないのが普通だ。
でも、私は違
っ
た。生まれつき魔力が強い私は大きな暴走を引き起こしたのだ。
祖母の日記によると、それは、私が母に連れられて祖父の屋敷に遊びに来ていた時に起きた。庭から大きな音が聞こえたので慌てて駆けつけてみると、草木があちこちで焼け焦げており、その中心で泣き叫ぶ私を大叔父が抱えるようにして倒れていた。側には黒焦げの野犬の死体があり、襲われた私が恐怖から魔力を暴走させたらしい。私が無傷で済んだのは大叔父のお陰だと書いてあ
っ
た。
代わりに大叔父は大ケガを負
っ
た。それが原因で寝たきりとなり、二年後に他界した。
仕方がない状況だ
っ
たのかもしれない。
でも、私のせいで大叔父は死んだ。
大叔父を死なせた私が、このまま普通に暮らし続けてもいいのだろうか?
そんな考えが、いつの間にか私の頭から離れなくな
っ
ていた。
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