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「この中に犯人がいる!」
下手したらホームレスの一歩手前みたいな――いまどき金田一耕助じゃあるまいし――小汚いその探偵に、はじめから嫌悪感しかなかった。商店街の近くに事務所をかまえ、事件をききつけて勝手に首を突っ込んできた。
あの日の事を思い出す。いつものとおり、自分の大福屋は閑古鳥が鳴いていた。大福を並べたって売れやしない。いっそ店を畳んだ方がいいんじゃないかなんて何度考えたかわからない悩みでぐるぐるしていたときだった。
店の前に、若い女性が倒れているのに気がついた。
いつからそこで倒れていたのかはわからなかった。気がついたら女性が倒れていて、慌てて店の外に出たが、怪しい人物を含め、商店街にはあいかわらず人はいなかった。
「は、犯人って?」
探偵の言葉に、つい返してしまった。探偵は少し怪訝な表情を浮かべたが、「もちろん被害者を殴った犯人です」と答え、そうだ、そりゃそうだ、とほっとした。
――魔が差したのだ。
倒れたOLさんの足元に、バッグが転がっていた。ヴィトンの財布が覗いていた。脳裏に今月の家賃のことが浮かんだ。
色々と、ぎりぎりだったのだ。
ほとぼりが冷めたころにこっそりお金を戻して財布を返そうと思っていたのだが。
犯人が見つかったとなったら、自分はどうしたらいいだろうか?