第15回 てきすとぽい杯
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ぽい投稿一周年記念 帰って来たピー
投稿時刻 : 2014.03.08 23:41 最終更新 : 2014.03.08 23:43
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- 2014/03/08 23:43:37
- 2014/03/08 23:41:28
ぽい投稿一周年記念 帰って来たピー
伝説の企画屋しゃん


 ピーがこの国を訪れて一年が経とうとしていた。
 最初は休暇のつもりだたのに、すかり根が生えてしまたのには一つの理由がある。
 スナク菓子が美味すぎるのだ。
 南国の妖精にとて今年の冬の寒さは相当に堪えたが、甘さを丁寧に抑えた飴やチコは故郷のそれらとは比べ物にならない。
 ぬいぐるみのような外見も、ピーにとては幸いした。
 街を歩けば、誰かが声を掛けてくる。
 渋谷界隈では、今やハチ公と肩を並べる人気と言てもいい。
 先月の大雪の際には、ピーの姿を象た雪だるまが道玄坂に並んでいたという。

 その日、ピーはコンビニで買た桜色のドーナツを頬張りながら鍋島松濤公園に向かていた。
 春が近づいていたせいか、野原を跳ねるウサギのように尻尾がくるくると回ていた。
 新商品のストロベリー味のドーナツも、悪くない味だた。
 億単位の家々が並ぶ通りを歩きながら、けれどもそろそろ故郷に戻ろうかとも思う。
 妖精の加護を失た故郷は荒れていた。
 大規模なデモが繰り返され、政治的指導者は求心力が疑問視されていた。
 この国のスナク菓子と別れるのは惜しいのが、生まれ育た集落が心配だ。
 ただ、何かしらの恩返しがしたい。
 この一帯に住む金持ち連中はどうでもいいが、自分に接してくれた人たちには幸せになてほしかた。

 そうして公園に着くと、噴水池を囲むベンチのひとつに見覚えのある顔があた。
 外回りの途中なのか、なるはやでお願いします、などと携帯電話で話している。
「なあ、お前、誰だけ? 前にどこかで会たよな」
 通話を終えた男に、ピーは声を掛けた。池の中では、亀が甲羅干しをしている。日差しは徐々に暖かくなていた。
「ん、そうだたかな。ところで、君はこの辺りでは有名な妖精なんじないか。本当にいたんだね。お目にかかれて光栄だ」
 ということは初対面か、と思いながら、ピーは男の目を見詰めた。どうやらこの男はつい最近、奇妙な体験をしたらしい。そのせいで、足元が揺らいでしまているのだ。それは極めて稀な現象だたが、ピーも知ている。無数の蝶が目の前で羽ばたき、空へ向けて壮大なカーテンをかけるのだ。
「ほお、妖精の俺には分かるぞ。お前、あれを見たのか。なるほど、それでそんなに複雑な表情をしていたというわけか」
 そう口にした瞬間、男は何かを悟たように肯いた。
「君はきと記憶を読み取れるんだね。そうだな、あれほど美しいものを見ると、後が困る。その時は得も言われぬ感動に包まれるが、その反動で途端にこの世の中が虚しくなてくる。あの爺様の気持ちが、今なら分かる」
「ちうどいい。俺は今、人助けをしようと思ていたところだ。お前が見た蝶合戦など、取るに足らないものだということを教えてやる。よく見ておけよ」
 そうして、よこらしとつぶやくと、ピーは柵を乗り越え、石の上の亀を一匹手に取た。さらに手近な木の枝を折ると、口にくわえて亀の甲羅を二度三度と手でさする。甲羅にはいつしか薄い羽が生え、そして大きな蝶へと変わていた。
「ほらよ」
 蝶を放り投げると、まるでマトリシカのように小さな蝶が次々と生まれていた。公園は無数の蝶に覆われ、その渦の中心にピーと男が立ていた。
「な、こんなのは朝飯前だ。お前が見たものは特別なものじない。そろそろ日常へ帰れ。沖縄とかいう場所では、お前みたいな奴は、マブイを落としていると呼ぶらしいぞ」
 そしてピーは、ポケトからグミを取り出すと口に放り込んだ。
 蝶はやがて、山の手通りの方角へと飛んで行た。
 故郷へ帰る前に、この辺りの豪邸から金目のものを頂戴していくか。
 尻尾をくるくると回しながら、ピーは公園を後にした。
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