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コンビニ。そうだあれはコンビニだ。R-667Aは蹲りながら自分が記録している場景を思い浮かべた。地球を発つ前日、主人は彼をコンビニに連れて行ってくれた。宇宙開発機構のコンビニには、いろいろと珍しいものが売られており、主人は強力な妨害電波を発する機器を彼に買ってくれた。これで弟たちによ、イタズラしてやれよ。主人はこどもっぽく笑っていた。
そうだ。これはただのイタズラだったのだ。Aは深い悔恨を感じながらふたつの壊れた機械人形を見つめる。二人の弟は見るも無残な姿で、暗闇と鉄錆に混ざっていた。
クオリアというが、それは単に演算処理中に複数の重ね合わせ状態を作り出し、認識パターン、行動パターンを確率化させているにすぎない。妨害電波を送ることでアンドロイドの見る世界は、簡単にゆがめることができた。兄弟の姿をまったく知らない顔の幽霊に錯覚させることも、小さな自分の船を巨大な幽霊船に見せることも造作のないことだった。
もうこんなことがあってはならない。彼はふと、まだR-667Dが来ていないことに気が付き、立ち上がった。妨害電波を早く止めて、せめて一番下の弟だけでも守ってやらねばならない。
しかしあの機器はどこにあるのだろう。
彼もまた、クオリアの持ち主だった。
明るいはずの船内は、暗い。
向こうから歩いてくる人影があった。弟のDだろう。しかし幽霊にしか見えない。もし双子たちのように攻撃してきたら、どうすることもできない。
賢明なDは、素通りすることを決めたようだ。彼は弟に話しかけようとしたが、そうしたら攻撃されるだろうと思いとどまり、立ちすくむ。
向こうから驚嘆の声が聞こえた。自分の船がこの短時間で寂れてしまったと錯覚している。
そのうちクオリアが大脳皮質だけでなく宇宙空間に充満している暗黒エネルギーと結合して、この宇宙船は本当に幽霊船になるだろう。
そして我々はそのころには主観と客観の区別も付けることなく、アンドロイドのくせに人間の幽霊のように、来訪者を待ち続けることになるのだろう。
誰かの船がやってきた。
(プロローグ・了)
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