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幽霊船
(1)
R-667Dはクオリアを有するアンドロイドである。彼は宇宙船を独りで操縦していた。
すると、彼は寂れた宇宙船の死骸を見つけた。その船はまるで幽霊屋敷のように、宇宙塵にまぎれて存在感をなくしている。彼がこの船を発見したのも、偶然によるものだ
った。
彼はめぼしいものがあれば回収、または通達することを主人に言い渡されている。見た目は不気味で、寂れているが、大きさはなかなかのものだった。なにか掘り出し物があるかもしれない。
迷ってしまった。船のなかは妨害電波が駆け巡っており、彼は自身のクオリアだけをもとにして船内を進むより仕方なかったのだ。
兄弟たちに救援信号を送ってみるも、彼らにちゃんと届くかはわからなかった。
どれくらい歩いただろう。出口はもちろん、金になるものもひとつ見つからない。
しかし幽霊は見つかった。男の子の幽霊だ。
幽霊とは、人間の恐怖や不安などのクオリアが大脳皮質と結合してもたらされる現象のことだ。幽霊はときに人間のクオリアに干渉することで対象を傷付けることができる。ここはおとなしくしていたほうがいいだろう。彼は幽霊を視界から外すよう努力して歩いた。
そしてなにごともなく素通りする。さらに出口がみつかった。
なんだやはりは単なる幽霊屋敷か。収穫はなかったが、主人や兄弟たちへの土産話にはなるだろう。
彼は出口に停まらせていた、自分が乗ってきた船にのりこむ。
船は寂れて、稼働しなかった。2 / 2
(2)
R-667CとR-667Bはクオリアを有するアンドロイドである。彼らは宇宙船を二人で操縦していた。うり二つの顔をした双子の彼らは、二人でいたほうがよく働くということで、主人から二人で動くよう言いつけられていたのだ。
すると、彼は寂れた宇宙船を見つけた。その船はまるで幽霊屋敷のように、宇宙塵にまぎれて存在感を失くしている。しかしそれはたぐい稀な巨大さを誇っていた。
こんなに大きいのだ。きっと金目になるものが見つかるだろう。都合のいいことにこれは幽霊船だ。中身を拾って勝手に持っていっても、誰も文句は言うまい。彼らは自身らが大金に囲まれている想像をした。
「どうだ。素晴らしいな」CはBに、自分の想像したイメージを送信して言った。
「ふむ。確かに素晴らしい。しかし考えてみろ。金に囲まれるのはおれたちではないだろう」
「そうだ。主人だ」
Cが送ったイメージに描かれている大金が、札束ではなく金貨であったのならば、Bもまた無意味に気分を良くし、こんな現実的なことは言わなかったことだろう。同一のイメージをもとにしているのに演算結果には差異が出る。それは両者ともに別々のクオリアを有しているからだった。
「ともかく入ってみようじゃないか」
「そうだな。それがいい」
入口を見つけ、船を停める。
迷ってしまった。Bは壁を伝って、おぼろな足取りで出口を探す。Cともはぐれてしまった。Bは歩く。船のなかにめぼしいものなどひとつも転がってはいなかった。誰か先に来た人がすべて持っていったのかもしれない。まったくなんということだ。
廊下の向こうに、人影を見つけた。おお、Cか。声をかけるも、反応が返ってこない。Bは不思議に思いながらもそこへ歩いて行った。
その人は幽霊だった。男の子の幽霊だ。幽霊とはクオリアと大脳皮質が結合して現れる現象のことだ。アンドロイドに大脳皮質はないが、それに準ずるCPUが勝手に干渉されているのだろう。こういう場合はスルーするのが鉄則だが、Cは男の子に攻撃することを選択した。クオリアを有するアンドロイドは、このようにしてマニュアルから外れた行動をおこすことができる。ちなみに幽霊は人間ではないので、傷つけたところでロボット三原則の第一条に反することはない。
Cは幽霊を内蔵レーザーで焼き切った。幽霊に穴が開いた。
幽霊が倒れる間際にレーザーを跳ね返してきた。レーザーはCの体を直撃し、貫いた。
Cは倒れた。
倒れた幽霊が、実はBであることにも、つまりその男の子の姿というのがCとうり二つのBの姿であることにも気づかずに。
彼らは機能停止した。