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南の島でした。
星々が夜空を覆い、あまりの多さにときどきこぼれ落ちていました。
棕櫚の木陰に一匹のキツネがうずくまっていました。
キツネは遠い北の国で捕えられたのです。すぐに毛皮にされるはずでしたが、たまたまこの南の島に移住する予定の人の目にとまりました。キツネの黄金色の毛並はほんとうに見事でした。これだけみごとな毛並みなら、さぞ高く売れるに違いない。その人はそう思って、キツネを連れてこの島へとやって来ました。でも、当てが外れたのです。この島は一年中暖かく、北の国でなら重宝されたキツネの毛皮も、ここでは暑苦しいだけでした。キツネを連れてきた人はがっかりし、それまでの丁重な扱いから一転して、餌も与えなくなりました。キツネは瘦せ細り、悲しげな声で鳴きました。それでも、誰も振り向いてくれません。
ある夜、キツネは気づきました。閉じ込められた檻の格子を通り抜けられるようになっていたのです。身体には力が入りませんでしたが、キツネは懸命に格子をくぐり抜けました。最初のうちは厳重に施錠されていた部屋の戸にはもう鍵がかかっていませんでした。キツネは爪を立てて引き戸を開け、そのまま蒸し暑い夜の中へと駆け出しました。見慣れた森も草原もありません。何も食べていないキツネはそれでも懸命に走りました。身体はふらついて目が回ってきました。とうとう倒れてしまう、というところで、聞いたこともない音とともに銀色の丸いものが目をよぎりました。月だ、と思った瞬間、キツネの意識は遠のいてゆきました。