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郵便配達人が、ウサギのもとへやって来ました。制服を着込んだ瘦せぎすの身体を折り曲げて手紙を渡す配達人を、ウサギは初めのうちは警戒していました。お屋敷を出てから時が経ち、あのふわふわだった毛並はすっかり汚れていました。手紙をもらうのは初めてでした。差出人は「キツネ」とあります。
手紙を読んだウサギはあまりのことにわなわなと震えました。そこに書かれていたのはウサギへの悪口でした。ひとりぼっちで、みっともない姿で、何もできずにただ茂みの中でお腹を空かせているだけのウサギを馬鹿にする内容で、ウサギは手紙を破り捨てたくなりました。こんなに腹を立てたのは生まれて初めてでした。なんで見ず知らずの相手からここまで言われなければならないのか。自分は哺乳動物なのになぜ一羽・二羽と数えられるのか、なんてどうでもよくなりました。椰子の根元の隠れ家から這い出たウサギは、赤い目をきょろきょろさせて、憎らしいキツネを探し始めました。
郵便配達人は、キツネのもとへやって来ました。砂を踏む音に身構えていると、制服を着た配達人はゆっくりとしゃがんで、手紙を砂浜に置いて、去って行きます。キツネはほんの少し体力を取り戻していました。ふんふんと鼻を鳴らし、危険がないことを確かめると、差出人欄に「ウサギ」とある封筒を取り上げました。
手紙を読んだキツネは思わず声を出しそうになりました。それは熱烈なラブレターでした。キツネの顔立ちがどれだけ愛くるしいか、キツネの姿を見ただけで夜も眠れないほど恋焦がれてしまう、と書かれていました。キツネは棕櫚の根方の棲み処から飛び出して、ひとしきり走り回ったあと、むさぼるように続きを読みました。そこにはこう書かれていました。「なーんて誰も思わないわ。ぶっさいくなホームレスギツネ、さっさと氏んでちょうだい」キツネの血液は瞬時に沸騰しました。自分が肉食だということをこれほど意識したことはありませんでした。キツネはネコ目イヌ科の動物で、自分はネコなのかイヌなのかでひそかに悩んでいましたが、もうどうでもよくなりました。棲み処をあとにすると、耳をぴんと立てて、許せないウサギを探し始めました。
郵便配達人は、砂浜のはずれにある岩の上に座っていました。制服の前をはだけて、制帽をあみだに被っています。月がゆっくりと昇って行きます。配達人は折り曲げた膝の上に顎を載せてじっとしています。エチゼンクラゲは沖合から、その姿を眺めていました。真上まで昇った月が傾き、やがて東の空が明るくなるまで、ふたりはじっとしていました。