一発逆転! 上半期ベストを狙え! 愛のいじり小説大賞
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サウス・アイランド
大沢愛
投稿時刻 : 2014.06.01 22:09 最終更新 : 2014.06.01 23:00
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 浜辺に打ち寄せる波の音は、胸の奥からやて来るようでした。岸を離れるにつれて波は少しずつ高くなて、夜空にかかる月は落ち着きなく揺れ動いています。
 郵便配達人は、制服と制帽を身に着けて波の上にいました。南の島は、夜になると疎らに明かりがともります。ガラスのかけらが瞬いて見える島は、暗がりの中で幸せに踊ているようでした。
 まくり上げたズボンからはすかり日に焼けた脛がのぞいています。海の中に浸けて、そと動かします。勘違いした魚がつつきに来るかもしれない、そんなことを思いました。
 お尻の下には、エチゼンクラゲがいました。相変わらず何も言わないままで、プランクトンを食べ続けています。傘の直径が二メートル近いエチゼンクラゲにとては、郵便配達人をひとり乗せようが乗せまいが、何も違いません。それでも、海中に潜ることはせずに、傘の部分を海面に差し出したまま漂ています。

 郵便配達人は岩の上で、最後に残た「手紙を求める心」を聞いたのです。それは、今まで聞いたこともない声でした。レタードを取り出そうとして、思い直して仕舞いました。岸近くに漂てきたそれに、郵便配達人は静かによじ登りました。足先は海水に浸かりますが、身体は濡れずに済みそうです。つい、と岩場から離れました。振り向いた岬には、あのちいさな割り箸の看板が見えました。砂の中に石を詰めて、風が吹いても倒れないようにしてあります。箸袋に何が書いてあるのか、あという間に滲んで見えなくなりました。

 ゆらゆらと海面を漂いながら、どうしてここに乗てしまたのだろう、と思いました。考えてみてもよくわかりません。ただ、眠りにつく前のぼんやりした落ち着きに包まれていました。いままで配達してきた無数の手紙のことを思いました。肩掛け鞄に大事にしまて、てくてく歩いて郵便受けに入れてゆく。それはとても幸せそうに見えました。
 ふと、郵便配達人は自分が手紙になたような気がしました。ゆらゆらと揺られながら、海流の求める先へ届けられる、という。何年もの間、配達してきましたが、自分が配達されるのは初めてでした。眠気が甘い蜜となて溢れてきます。このまま眠てしまえば、次に目覚めたときには手紙になているかもしれません。郵便配達人は、制服のボタンを襟元まできちんと留めました。お届け先に届けられるまで、海水に濡れないように。背筋を伸ばして、揺れ動く星の残像を追います。遠い夜空でも、ひきりなしに手紙が飛び交ているようでした。

 
 海面の下でプランクトンを食べ続けていたエチゼンクラゲが、ちいさなアブクを吐き出しました。

                (了)
 

 

 

 
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