【BNSK】月末品評会 in てきすとぽい season 4
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越中泥棒左衛門碧之介の私怨ゲージ
投稿時刻 : 2014.06.27 23:21
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越中泥棒左衛門碧之介の私怨ゲージ
伝説の企画屋しゃん


 634。
 この数字は何を意味するか。
 言わずと知れた、スカイツリーの高さを示すものである。
「どうして、どうして、あんなものが……この東京に」
 ドンキで買た缶チハイを手に、ある夜越中泥棒左衛門碧之介は呪いの言葉を吐いた。
 正確に言えば、ある夜どころか、スカイツリーの開業以来、毎晩同じことをつぶやいている。
 口癖というよりも、もはや習慣と言てもいい。
 一日に何度も祈りを捧げる人々がいるように、越中泥棒左衛門碧之介も日々スカイツリーに怒りをぶつけずにはいられないのだ。
「憎い! ことあるごとに灯りがくるくる回ている、あの嫌味たらしい細長いのが憎い!」
 格闘漫画よろしく缶チハイを握りつぶそうとした越中泥棒左衛門碧之介だたが、残念ながら握力は人並みだた。
 とはいえ、腹の底で煮えたぎる憤りは本物で、私怨ゲージの動きは相変わらず活発だ。
 どうして自分はこうまでツキがないのか。そもそも、こんな長い名前なんてあり得ない。
 こうして積もり積もた私怨は雪だるま式に増幅し、越中泥棒左衛門碧之介にある変化をもたらすことになる。
「もう我慢できない。私のかわりに、ほかの人が泣けばいいんだ。そう、たとえば日本一のあの山の麓で暮らす人たちとかね!」
 潰れないはずの缶チハイが、ぷしという盛大な音とともに圧縮された。
 越中泥棒左衛門碧之介は、しばらく前まで東京タワーで土産ものの売り子をしていたのだ。
 が、なまじ腕に覚えがあたのがまずかた。
 完全歩合制を選択した給料は、訪れる客が減れば当然それに比例する。
 最後にもらた給与明細は凄惨なものだた。
 これでは、ホタルイカ一匹買えないではないか。
 ついに進退窮また越中泥棒左衛門碧之介は、故郷へと戻る道を余儀なくなされたのだ。

 古来から、一念岩をも通すという。
 天井知らずの私怨ゲージは、ある日のこと奇跡を呼び起こした。
 実家の窓から見える立山連峰に、越中泥棒左衛門碧之介は来る日も来る日も怨念を送ていた。
 富士山よりたかくなーれ! あの山、日本一の山になーれ!
 富士山を誇りにする人たちが悲しみに暮れる姿を思い描く、その執念や恐るべし。
 大汝山をはじめ3つの峰が、なんと4000m級の山へと変貌してしまたのだ。
「ふはははは。これで分かたか。この碧之介がスカイツリーに屈した悔しさを!」
 げに不可解なるは人のこころ。とめどなく高笑いをする越中泥棒左衛門碧之介の頬には、一筋の光が瞬いていた。
「ひく、ひく。今月こそBNSKに投稿したいよ。ホントは富士山なんて、どうでもいいんだよ。ふええ」
 これまで生きる源と信じていた私怨ゲージ。しかし、それがようやく萎む気配を見せたとき、越中泥棒左衛門碧之介は雨上がりの草原に佇んでいるかのような爽快感を味わた。
 ひく、ひく、ふええええ。
 もはや泣いているのか、歓喜にむせているのかも定かではない。
 だが、胸の中で複雑に絡み合うその感情が、ついに越中泥棒左衛門碧之介に筆を取らせることとなる。
「見せてくれよう、ぽい杯連覇者第一号の私怨。でも、でも、やぱり公募原稿も書きたいよ
 まるで気圧配置に大きく左右される、近年の天候のように猫の目だた。
 果たして、越中泥棒左衛門碧之介は今回こそ姿を現すのか。
 締め切りまで、あとわずか。
 そのとき、越中泥棒左衛門碧之介の瞳に浮かぶ涙の色とは。
 それは神様でさえ分からない。
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