てきすとぽい
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第18回 てきすとぽい杯
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掃除機より愛を込めて
(
木下季花
)
投稿時刻 : 2014.06.14 23:40
最終更新 : 2014.06.15 00:07
字数 : 4293
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更新履歴
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2014/06/15 00:07:08
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2014/06/14 23:45:07
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2014/06/14 23:44:31
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2014/06/14 23:43:04
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2014/06/14 23:42:15
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2014/06/14 23:40:47
掃除機より愛を込めて
木下季花
僕の幼馴染が掃除機にな
っ
てしま
っ
たらしい。彼女の母親からその知らせを受けて、僕は大慌てで彼女の家に行
っ
た。玄関を開けて挨拶もなしに彼女の部屋に入ると、彼女が「ういー
ん」と言いながら床を匍匐前進しているのが見えた。なんてことだろう。彼女は完璧に掃除機にな
っ
てしま
っ
たようだ
っ
た。何で掃除機にな
っ
たのだろう。僕は頭がおかしくな
っ
た彼女を放
っ
ておいて、一階の居間にいる彼女の母親に話を聞きに行
っ
た。
「私が大雑把で部屋を散らかしても気にならない人だから、彼女は掃除機にな
っ
たのよ」
と彼女の母親は言
っ
た。そんなことで掃除機になるものか! と僕は思
っ
たが口には出さなか
っ
た。彼女の母親がいる居間はまさにゴミ屋敷だ
っ
たからだ。様々なゴミが居間に溢れていた。弁当の容器、洗
っ
ていない皿、使
っ
たまま放置されたテ
ィ
ッ
シ
ュ
、洗われていない洗濯もの、腐
っ
たパイナ
ッ
プル、錆びたマウンテンバイク、折れた鉄パイプ、壊れた洗濯機、空気の抜けたサ
ッ
カー
ボー
ル、画面が割れたテレビ、引き出しのない机、才能のない夫、それらが雑然と積み重ねられて、彼女のいる居間が出来上が
っ
ていた。僕は鼻を摘まみながら、掃除をしなさい、馬鹿、と言
っ
て部屋を出た。それから僕は幼馴染がいる部屋へ戻
っ
た。幼馴染は相変わらず「う
ぃ
ー
ん」と言いながら床のゴミを吸
っ
ていた。先ほどより稼働音が小さくな
っ
ている気がする。性能が上が
っ
たのだろうか。僕は掃除機にな
っ
た彼女を持ち上げて、オンオフのスイ
ッ
チを探した。さすがに人間の女の子の体をまさぐるのは気が引けるけれど、彼女は今は掃除機なのだ。構わないだろう。僕彼女の服に手を入れて、その滑らかな肌を触
っ
た。右の乳首に触れると、「し
ゅ
ー
ん
……
」と言いながら、彼女は動きを止めた。右の乳首がオフのスイ
ッ
チらしか
っ
た。さて、どうしたものかと思いながら、僕は掃除機にな
っ
た彼女を家へ持ち帰
っ
た。あんなクズの親の元にいたから、彼女は掃除機にな
っ
てしま
っ
たのだ。
それから一
ヶ
月、彼女の掃除機としての性能はぐんぐん上が
っ
てい
っ
た。もはやオンにしている時でも駆動音はほとんどしなくなり、そしてどんなに細かいちりやほこりも完璧に吸うようにな
っ
た。カー
ペ
ッ
トに絡ま
っ
ている髪の毛や皮膚も見逃さない、まさに完璧なる掃除! 腹の中はサイクロン方式で、すぐにゴミを消化し、トイレで吐き出す、完璧なるエコな掃除機だ
っ
た。
「ういー
ん」
ベ
ッ
ドに寝そべ
っ
ていると、毎朝彼女が僕を起こしてくれる。時々、頬や腕を吸われるのが痛いけれど、それでも毎朝起こしてくれるのは有難い。
「ういー
ん!」
どうやら朝ごはんも作
っ
てくれたらしい。最近の掃除機の性能はすごい。もはや掃除機ではない。でも、彼女は掃除機だ。まるで蛇のようにに
ょ
ろに
ょ
ろと床を這いながら、大きく開けた口でごみを吸
っ
ていく。その姿は愛らしい。ただ、階段を降りる時なんかは痛そうで、時々ごろごろと転がりながら落ちていく。あれで骨折しないのだろうかと心配になるのだが、彼女は掃除機なので骨折などしない。強いて言うのならば故障だ。
僕は彼女の腕を引
っ
張りながら街を歩く。掃除機を引
っ
張りながら歩くなんて、昔だ
っ
たらなら考えられなか
っ
ただろうけれど、幼馴染が掃除機にな
っ
てからは、やはり僕も考え方を改めた。町の中にはたくさんのゴミがあるのだ。
近くの公園を散歩していると、池の唾を吐き煙草をポイ捨てしている男を発見した。アイツは紛れもないゴミだ。クズで、人間としての恥だ。僕は早速その男の元へ歩いていく。そして、彼女に向か
っ
て「いけ、あいつを吸い込め!」と命令をかける。
幼馴染は「ういー
ん」と言いながら、物凄いスピー
ドでその男の元へ向か
っ
ていく。男は僕らに気づき、幼馴染の吸い込みを避けようとするが、そうはいかない。幼馴染の性能は今や相当なものなのだ。
そうして幼馴染と戦
っ
た後、彼は冷蔵庫にな
っ
た。紛れもない冷蔵庫だ。彼女に吸い込まれた男は、翌日にな
っ
て彼女の尻から冷蔵庫とな
っ
て出てきた。でも僕は冷蔵庫がいらなか
っ
たのでヤフー
オー
クシ
ョ
ンで冷蔵庫を売
っ
た。七千円くらいで売れた。
掃除機とな
っ
た彼女は、僕の心を吸い込んで離さない。なんて糞みたいな駄洒落的な事は無くて、もちろん幼馴染はただの幼馴染である。恋愛感情など無い。ましてや掃除機に恋をする男なんていない。掃除機はただ掃除をして居ればいいのだ。なんて事を大学の友達に話したのならば、僕は総スカンを食ら
っ
た。女の子を何だと思
っ
ているのよ! という意見が女の子の大半から送られ、仲間内の男からは鬼畜だねえ、なんてあきれ顔で言われた。ゲイの奴からは熱烈な視線を受けたが無視した。だ
っ
て、掃除機は掃除機だろ、何て意見は、今の時代じ
ゃ
古臭いらしい。女の子は掃除機でも洗濯機でもなく、女の子なのだと、女の子たちは言
っ
た。アイツらは男を財布と思
っ
ている屑のくせに。女の大半はゴミだ。なんて事を言
っ
たら、掃除機である幼馴染は怒
っ
た。「ういん!」と言いながら僕を吸い込み、まごまごとしている僕を、洗浄機で洗
っ
たみたいに綺麗にしてしま
っ
た。おかげで僕の趣味は今日からボランテ
ィ
アさ。赤い羽根で作
っ
たジ
ャ
ケ
ッ
トを着て街へ出かけていき、困
っ
ている世界中の人へ向けてお金を寄付する。障害のある子供たちの施設へ行
っ
て、職員のお手伝いをする、戦争をしている人たちの元へ行
っ
て、武器を配る、そうさ、僕のや
っ
ていることは人のためなんだ、と思
っ
ていた時期が僕にもあ
っ
たが、それは全て、僕の自己満足に過ぎなか
っ
た。結局は僕の善意の押し付けに過ぎなか
っ
た。そう気が付いた時に、僕はボランテ
ィ
ア活動を辞めた。そうして僕は小説家になることを決めたんだ。最初の作品は、おじいさんが山へお婆さんをボコボコに殴りに行く、という話だ
っ
た。あまりのくだらなさに一部の読書家にウケ、その作品はそこそこ売れた。でも、その作品以外アイデアが浮かばなくな
っ
て、僕はすぐに小説家を辞めた。今ではもう僕は中年だ。それでも僕の横には当たり前の様に、掃除機とな
っ
た幼馴染がいる。毎日何も言わずに「ういー
ん」と言う稼働音と共に、家を掃除してくれている。家が常に綺麗なのは幼馴染のおかげだ。周りからは結婚しろなんて事を言われるけれど、それでもやはり掃除機と結婚をするなんて、僕の常識に反する。常に一緒にいるけれど、幼馴染はあくまで幼馴染であり、恋人や婚約者ではない。幼馴染も僕のそんな気持ちをわか
っ
ているのか、何も言わずに、常に横にいるだけである。僕は小説家を辞めてから、大きな商売をしようと、雑貨屋を始めた。中国などから、他店では売らないような珍しい商品を仕入れ、自分の店で売
っ
た。最初は物珍しさで客が集ま
っ
た。しかし、商才のない者の常として、あまりにも安易に手を広げ過ぎた。軌道に乗
っ
たからといて、二号店三号店を出店し、赤字を出すようになり、やがて店は潰れた。借金が残り、その借金を返すためだけの生活が始ま
っ
た。俺は馬鹿だ、なんて事を言
っ
て自分を呪い、そして自分の愚かさに耐えられなくな
っ
て、隣にいた掃除機を蹴
っ
たこともある。そんな時でも幼馴染である掃除機は僕の元を離れることなく、ただ何も言わずに横にいた。気が付けば、僕はもう七十歳を過ぎている。幼馴染は、ず
っ
と掃除機のままだ。でも僕は、そんな幼馴染を使い続けている。僕はどうしようもない屑で、ゴミで、だから幼馴染は、ず
っ
と僕の元に居てくれたのかもしれない。僕が八十二歳にな
っ
た時、遂に幼馴染である掃除機が動かなくな
っ
た。ある日、唐突に、うんともすんとも言わなくな
っ
て、動かなくな
っ
た。ただそこに静かに存在し続け、安らかな顔で眠り込んでいた。布団の中で、安らかな笑顔で
……
。僕は泣いていた。もちろんなくつもりなど無か
っ
た。掃除機が壊れたくらいで泣く男なんてこの世に存在しない。けれど、どんなに止めよう止めようと思
っ
ても涙は止まらなか
っ
た。次々と溢れて止まなか
っ
た。色々な修理屋に飛び込んだけれど、もう掃除機は治らなか
っ
た。僕は色々な場所に駆け込んだ。掃除機が治るなら、どんなことでもすると言
っ
た。でもどこに行
っ
ても、もう治せません、と首を振るばかりだ
っ
た。何故も
っ
と大切にしてやれなか
っ
たのだろう。僕はそんな陳腐な後悔に苛まれた。掃除を弔
っ
て、ゴミ処理場で彼女の部品の一部を貰
っ
て帰