かとんぼエクスチェンジ
そのやせた体は、浮遊している。
黒くゆがんだ顔は深いしわが刻まれ、下卑た笑いを頬に浮かべている。腰は折れ曲がりその指は黒く汚れ、やにが爪の間に入り込んでいる。
髪はふけに覆われ、くさい匂いがする。
男の口が開いた。
そうだ。あんただよ。べいびい。
男は「処女たる鉄柱乙女」に声をかける。
金の髪をした乙女は、まだその醜い男の存在を知らぬ。
乙女は髪をくしけずり、桃のような頬を染め、紅い血をたぎらせる。「蒼き本棚の騎士」の到着が近いことをその胸は知る。その褥に美しき強き騎士を迎えんと、みだらに横たわり、胸を高鳴らせる。騎士は美しい高潔な人と聞いている。その騎士を待つことが、生まれ落ちてからの彼女の生活のすべてである。
「処女たる鉄柱乙女」は、その血塗られた宿命から逃れられぬ。
同じ母から生まれし「銀しずくのガラ柄乙女」と「銀ナイフの銀杏乙女」は、その小さき心臓を乙女のために捧げた。姉たちの血の中で生まれし乙女は、「蒼き本棚の騎士」を迎えいれ、生贄とされた姉たちの無念を晴らさねばならぬのだ。
「蒼き本棚の騎士」は、「べりべりばりぼー
スプラッシュ」と「カロリー控えめなる定食の灯り」を従え、乙女の褥へと向かいくる。「蒼き本棚の騎士」はその知性をもって帝国を救うべく、この深い森の奥底へとやってきた。彼もまた帝国がもてる最後の希望である。
血塗られた「処女たる鉄柱乙女」と、知性と剣で帝国を救おうとする「蒼き本棚の騎士」が出会おうとするその時、
おう、気が付いたかい。べいびい。
その男はくつくつと笑う。
「蒼き本棚の騎士」を迎え入れ、その子をはらまんとする乙女。
その滅びゆこうとする帝国の起死回生の一手となるべくその無垢なる体を差し出すのだ。
乙女の生む子は、帝国を救う。「こうあるべき健全なる帝国男子」となる。
でも、違うんだぜ。べいびい。
あの狡猾なる魔導士「天高く馬肥ゆるべきその熊手」は、そのために俺をよこすのさ。
そう「蒼き本棚の騎士」は、「かとんぼエクスチェンジ」となる。
知性あふれた美しき騎士は、汚れた醜い男となる。
醜き男は、白き「処女たる鉄柱乙女」に手を伸ばす。
乙女の悲鳴が暗い森にこだました。
お前が産むのは、あの気取った騎士の子供じゃない。俺の子供さ。いや、「かとんぼ」さ。
乙女が産み落とすは、狡猾なる魔導士の子供たち「かとんぼ兵」。その数、三億五千万。
帝国を内部から、完全に食い尽くす。
わかったかい。べいびい。