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来たれ てきすとぽい作家! 800字小説バトル
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 投稿時刻 : 2014.10.15 00:11
 字数 : 800
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曇天
伊守 梟(冬雨)


 御殿場駅の駅前広場で地元の女子高校生ふたりがベンチに座て話をしている。僕は沼津からの帰りで、夕刻に発車するロマンスカーを待ている。切符を買うついでにその駅前広場にある公衆トイレで小便をしてきたところだ。
 富士山は雲の向こうに隠れてしまている。僕は晴れた日に撮た富士山の写真が掲示してある案内図を見つける。駅前にいくつかビルが建ているとはいえ晴天ならばかなり近くに見えるようで、僕は残念な気持ちになる。
 僕は曇天を恨めしく見上げつつ、彼女たちが座ている場所の隣にあるベンチに座た。

 盗み聞きするつもりなどなかた。たまたま聞こえてきただけだ。

「本当の話なの?」
 シトヘアの子が絞り出すように言う。ポニーテールの子は力なく頷く。
「どうしよう」
 すすり泣くような声が聞こえる。「こんなこと誰にも言えないよ」
 僕は腕時計を見る。
「でも、ひとりじ何もできないでし?」
 ポニーテールがコクンと揺れる。少し昔に流行たアニメ的センスのセーラー服が震えているように見える。
 それからしばらくふたりは声をなくした小鳥のように黙りこくていた。
 時間はゆくりと次の時間を連れてくる。時計の秒針がウサギみたいに長針と短針を追い越していく。空は少しずつその色を消していく。
「彼に、話したほうがいいと思う」
 シトヘアの子は意を決したようにそう言い、唇を噛み締めた。「言えないなら、私が言う」
 ポニーテールの子が何か言たような気がしたけれど、僕にはよく聞き取れなかた。僕は腰を上げ、胸ポケトから潰れたセブンスターの箱を取り出して数メートル先にある喫煙所に向かう。
 彼女たちの声はもう聞こえなかた。

 僕はさき買い求めた切符で改札を通り、ロマンスカーの上等な椅子に座る。
 ふと、今となてはだいぶ昔に起こた出来事を思い出す。僕の妹が起こした重大で深刻な出来事を。

 僕は彼女を思い出す。
 そして僕は、誰にともなく祈りを捧げる。
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