てきすとぽい
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第23回 てきすとぽい杯
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ある少女たちの物語 ― 違うのは最初の“私”だけ
(
晴海まどか@「ギソウクラブ」発売中
)
投稿時刻 : 2014.11.15 23:44
字数 : 3235
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ある少女たちの物語 ― 違うのは最初の“私”だけ
晴海まどか@「ギソウクラブ」発売中
私が大園伊月の部屋に入
っ
たのは、彼女が死んでからだ
っ
た。
私の中にある伊月のイメー
ジは、いつだ
っ
てセー
ラー
服姿だ
っ
た。窓際の席に座り、吹き込んでくるゆるい風にセー
ラー
服の襟をはためかせているような、そんなイメー
ジ。
彼女の視線は、窓の外か机の上のノー
トに向か
っ
ていたように思う。今どき誰もがスマホを持ち歩いているようなこのご時世なのに、彼女は旧型のガラケー
を使
っ
ていた。そんな彼女だから、ノー
トに手書きで小説を書いていても違和感はあまりなか
っ
た。
クラスで浮き気味な彼女と、周りの空気を読んで読んで気を遣
っ
ているような私に接点なんて何もなか
っ
た。
あの日、あのノー
トを見てしまうまでは。
伊月の部屋は、一軒家の二階の角部屋。ベランダに面した窓が大きくて、レー
スのカー
テンを透かした光がさんさんと降り注いでいて明るか
っ
た。カー
ペ
ッ
トは明るいピンク。ベ
ッ
ドの枕元には白いウサギのぬいぐるみ。机の上は片づいていて、花柄のお菓子の缶にペンが立ててあ
っ
た。想像してもいなか
っ
た女の子
っ
ぽい雰囲気に、私は初めて動揺した。彼女が死ななか
っ
たら、き
っ
と私はこんなこと、知らずに高校を卒業して、彼女のことなど二度と思い出さない人生を送
っ
ていたに違いない。
ごゆ
っ
くり、と伊月のお母さんに声をかけられ、私は会釈を返し、部屋を見返した。
私は通された彼女の部屋でしばらく立ち尽くし、そして肩に提げていたトー
トバ
ッ
グからあのノー
トを取り出した。
ピンク色の、花が散
っ
た柄の表紙。近所の雑貨屋さんでしか売
っ
ていないオリジナルのノー
トだそうだ。
あの日の放課後。拾
っ
たこれを返す間もなく、彼女のあとを追うように伊月は学校の屋上から飛んだ。
伊月はどうしてこんなものを書いていたんだろう。
私はノー
トの表紙をめく
っ
た。
『ある少女の物語』
そしてこの物語は、こんな書き出しで始ま
っ
ている。こんな一行で。
『私が七瀬香の部屋に入
っ
たのは、彼女が死んでからだ
っ
た』
***
私が七瀬香の部屋に入
っ
たのは、彼女が死んでからだ
っ
た。
私の中にある香のイメー
ジは、いつだ
っ
てヒマワリだ
っ
た。明るく大きく花咲くように笑い、いつだ
っ
て周囲に笑顔をふりまいていた。教室のすみで一人でいることが多い私とはあまりに対照的で、まるで光と影だ
っ
た。
そんな影の存在である私と彼女に接点などなか
っ
たのに。
高校からほど近いところにあるマンシ
ョ
ンが香の家だ
っ
た。彼女から預か
っ
ていたものがあると連絡すると、彼女のお母さんは快く私を彼女の部屋に通してくれた。
さ
っ
ぱりした部屋だ
っ
た。明るく女の子
っ
ぽい彼女とはあまりに印象が異なる。小さな窓が一つあるだけの、六畳ほどの部屋。き
っ
ちりと整えられたベ
ッ
ドカバー
は薄いベー
ジ
ュ
色。
いつの間にか香のお母さんは廊下にいなくな
っ
ていて、香の部屋の前で私は一人にな
っ
た。
シ
ョ
ルダー
バ
ッ
グの中から、彼女のノー
トを取り出す。
私と彼女は、何の偶然か同じ雑貨店のノー
トを使
っ
ていた。今年の四月に、お母さんがかわいいからと買
っ
てきてくれたものだ。私はそれを数学のノー
トに、彼女はそれを自作の小説を書くために使
っ
ていた。
彼女が小説を書くだなんて知らなか
っ
た。私みたいな、いかにも読書が好きそうな日陰者ならともかく。それも学校で、手書きでノー
トに書いていたなんて。
自分でも、イメー
ジじ
ゃ
ないと思
っ
てたんだろうか。
だから彼女は、ノー
トを見られたと知
っ
てあんなに怒
っ
たんだろうか。
怒
っ
て、それで絶望して?
この内容なら、私が怒るのが筋
っ
てものじ
ゃ
ないのか。
表紙をめく
っ
た。丸い文字でタイトルが書いてある。
『大園伊月の物語』
そしてこの物語は、こんな書き出しで始ま
っ
ている。タイトルと同じように私の名前を含む、こんな一行で。
『私が大園伊月が死んだと知
っ
たのは、みんなより少しだけ早か
っ
た』
***
私が大園伊月が死んだと知
っ
たのは、みんなより少しだけ早か
っ
た。
昔は学校から何か連絡事項がある場合の連絡網
っ
て電話だ
っ
たらしいけど、今どきのそれはメー
リングリストにな
っ
ている。便利なのね
ぇ
、
っ
てお母さんが感心していたので逆に驚いたくらいだ。
『大園伊月さんが亡くなりました。詳細は明日、学校で説明会あります』
そんなような文面だ
っ
たと思う。思
っ
たよりも簡潔な文章だな
ぁ
と思
っ
た。
メー
リングリストが回
っ
た直後、ミナやハルカたち仲良しグルー
プの子たちとや
っ
てるリンクスのメ
ッ
セー
ジが飛んできて、途端に忙しくな
っ
た。みんな別に、伊月と仲がよか
っ
たわけじ
ゃ
ない。ただただ、『クラスメイトが死んだ』
っ
て事実に驚いていただけなんだと思う。
私はメ
ッ
セー
ジを送りつつ、深いため息をついた。
本当に、伊月、死んじ
ゃ
っ
たんだ。
私は部屋のすみに放
っ
てある学生鞄を見や
っ
た。そこには、同じお店で売
っ
ているノー
トが二冊入
っ
ている。ピンク色の表紙の、近所の雑貨屋さんでしか買えないノー
ト。一冊は私の数学のノー
ト、そしてもう一冊は伊月の小説が書いてあるノー
ト。
伊月は、いつだ
っ
て教室のすみに一人でいるような子だ
っ
た。
別に、みんなだ
っ
てハブにしたいわけじ
ゃ
ない。むしろ拒否されているのは私たちの方だ
っ
た。彼女はたびたび、私たちをバカにしたような目でチラ
っ
と見た。私はあんたたちとは違うレベルの人間なのよとでも言いたげに。
その視線が、とにかく気に喰わなか
っ
たのだ。
だから、同じノー
トを使
っ
ているのに気づいたとき。本当に嫌な気分にな
っ
たのだ。お揃いなんて冗談じ
ゃ
ないと。
だから、こ
っ
そり彼女のノー
トを私は机から抜いた。
なのに、彼女は私のその行為を知
っ
ていた。放課後、日直の当番で帰りが遅くな
っ
た私を彼女は待
っ
ていた。彼女はわざわざ人気のない四階の空き教室に私を呼び出して問い詰めた。なので、私は逆に問い詰めてや
っ
たのだ。
どうしてそのノー
トに
――
小説に、私の名前が書かれているのかと。
彼女は答えず、そのままもみ合う形にな
っ
た。ベランダに出た。彼女の体が柵を越えた。
彼女の体が落ちた先は、特別校舎に通ずる渡り廊下の屋根の上だ
っ
た。石造りのそれは何の音も響かせず、黙
っ
て彼女の体を受け止めた。学校の中はまだまだ明るいのに、誰もそのことには気づいていなか
っ
た。
私は駆けだして、学校を出て、人気がなくな
っ
てきたところでようやく足を止めた。バ