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第24回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・白〉
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一杯のカフェラテから
 投稿時刻 : 2014.12.13 23:52
 字数 : 2524
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一杯のカフェラテから
桂 まゆ


「あ、それこちです」
 てこでも動かないように、立ち尽くしてしまたウエイトレスに向かて、僕は手を挙げた。
 実は、コーヒーはブラク派だ。そして、ウエイトレスがシルバートレイに乗せているのは、カフラテ。
 そもそも、僕の前にはまだ水も置かれていない。オーダーすら通ていない状態なんだ。
 でも、ここで僕がそういう行動に出たのは理由があた。
 この、十七歳か十八歳ぐらいの店員の、いかにも不慣れそうな手つき、そして、それを知りながらクレームをつけた客。
「私が頼んだの、ココアなんですけれど?」
「え? でも確か」
「私、コーヒー飲めないんです。だから、そんなもの注文しません」
 困たように立ち尽くす、少女。周りを見回すと、どの客も何らかの注文は通ているようだ。
 テーブルの上に水しか置かれていないのは、その女のみ。
 なるほどと、そう思たから店に入たばかりでまだオーダーが通ていない僕が手を挙げた。ウエイトレスの女の子は不審そうにしていたけれども、僕が小さく頷くと嬉しそうに駆け寄て来た。
 カフラテなんか、飲んだこともないから、とりあえず。
「後で良いから、水、ください」

 ウエイトレスが奥へと消える。多分、ココアのオーダーを通すついでに水を取りに行たのだろう。

「こちら、よろしいですか」
 顔を上げると、ココアのカプを手にした女が、僕を見ていた。
 さきの、いけすかない女。
「何ですか?」
 僕の言葉に、女は僕の前に座りながらおかしそうに笑う。
「何ですかて、こちらが聞きたいんですけれども?」
 ため息が出た。
「人を困らせるのは、ご趣味ですか?」
「そんな趣味はありませんよ。ただの八つ当たりです」
 女は、楽しそうに笑う。
「あの人を助けたように、私がとても困ていると言えば、私のことも助けていただますか?」
 でも、それを告げた時の女の眼は真剣に見えた。
 だから、僕は。
 話だけなら聞いても良いかなと思たのだ。
 そう。これが、全てのはじまりだた。

 女は、長谷川瑞樹と名乗た。
 29歳、独身。いわゆる、妙齢というやつだなと、失礼を承知で思う。だから、決して口には出さない。
「困ているんです。実は私、結婚相談書に登録していまして。誰でも、お気軽に登録できる所なんですけれどもね。そこで、結婚詐欺にひかかりました」
 ありがちだと、思たね。
 婚期を逃すのが怖くて、手軽に登録できる結婚相談所に飛び込んで――そういう所ほど、悪い男が多いことなんか、考えもしない浅はか女なのだろう。だから、簡単に引かかる。
「どれぐらいとられたんですか?」
 尋ねたのは、単なる好奇心。それと、相手が自分の不幸を誰かに語る事を望んでいるのなら、聞いてやても良いと思ていた。
 だが、返て来たのは、
「とられる? お金ですか? そんなもの、一円も渡してませんよ」
 素頓狂な声。それに続くのは、まるでマシンガンのような――
「え? 何ですか? 私、そんなにがついて見えますか? 結婚相談所で紹介された相手に――全然知らない相手に、突然ひとめぼれして? ありえない」
 一気に、そこまでを言い捨てる。
「いや、だて。引かかたんですよね?」
「そうですよ。引かかりましたよ。引かかただけです。まだ、釣り上げられたわけではありません」
 その、妙齢の年代女性のリアルな表現、止めませんか? とは、言えるわけがなく。
「いくら結婚相談所の紹介だからて、結婚を前提に付き合い始めた相手の身上調査ぐらい、しません?」
 成程。29歳独身。どうりで身持ちが固いわけだ。
「詐欺罪で、三度告発されています。どれも、結婚相談所を使た悪質な犯行」
「だたら、その調査書を相手に突き付ければ良いんじないですか?」
 喫茶店で、新入りのウエイトレスをいじめて憂さを晴らすより、よほど現実的だと、僕は思う。
 だが、女の言葉は想像の上を行た。
「はあ? 相手は、既に三度告発されている詐欺師ですよ。その前に前科がどれぐらいあたのかも想像つきません。顔が良くて、堅実そうに見せかけて、それなのにお腹の中が真黒な、そういう男ですよ。そんな男に調査書を突き付けて、『だから、別れて下さい』て、言うんですか? あなた、言えるんですか?」
「だからその、マシンガントークはやめてください。まだ、モーニングの時間なんですから」
 そう言うのがやとだ。
 そもそも、僕はそんなに口が上手なわけではない。立て続けに言われたら、何も口出しが出来ないタイプ。もしかしたら、詐欺に合えば騙されるタイプなのかも知れない。まだ、一度も経験したことは無いが。
「あら、失礼」
 女は息も切らせずににこりと微笑み、ココアを口に運ぶ。
 その仕草があまりに余裕げで。先刻、ウエイトレスに八つ当たりをしていた姿からは想像出来ないほどに。
 だから。少し、嫌な予感がした。
「ですから、私、既成事実をでちあげようて考えたんですね。『別に結婚したい人が出来たの。あなたは良い人なんだけど、本当に本当にごめんなさい』て言たら別れられるかな? いや! 相手は蛇の道は蛇な詐欺師。言葉だけでは、無理!」
 女は一度そこで言葉を切り、ぶるぶると首を振る。
「婚姻届でも見せようかと、もらて来たんですけれども。例え友達でも、この歳で、ですよ。『結婚詐欺に引かかてる』なんて言えない!」
 そう言われる僕は、この女にとてどういう立場なのだろう。「その辺にいる、話を聞いてくれる他人」ぐらいか?
 女の顔が迫る。
 そして、婚姻届も迫て来る。
「ま、さ、か」
 僕には、その三言が精一杯だた。
「助けると思て、サインしてくれませんか?」
 婚姻届と書かれた、契約書に。


 半年後の三月吉日。
 山崎和夫と長谷川瑞樹は、晴れて挙式する事になた。
 理由をいちから話せばとても複雑で。結論だけを言えば、「合意しての決断」となる。
 指輪の交換をした二人に鐘の音が鳴り響き、立会人と呼ばれる人々から花びらが降り注がれる。
「きれい」
 うとりと告げる瑞樹の手をぐと握る。彼女を守ると決めた。
 大切な人だと、守りたいのだと、本気で思てしまたのはいつだたかな
 仕組まれてた? いや、ばかな。
 僕の人生、いたいどこでこんな方向に進んだのやら。

 それは、一杯のカフラテから。
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