てきすとぽい
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第24回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・白〉
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カフェオレ色
(
ぽてと
)
投稿時刻 : 2014.12.13 23:53
字数 : 3044
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カフェオレ色
ぽてと
違いなんてどうでもいいじ
ゃ
ないか、なんて思う。
カフ
ェ
ラテ、カフ
ェ
オレ、ミルクコー
ヒー
、コー
ヒー
牛乳、加糖コー
ヒー
ミルク入り。
その辺の事情に明るくない俺でもこのくらいはすぐにあげられる。コー
ヒー
と牛乳を混ぜて、お好みで砂糖を入れただけの単純な飲み物だ。製法が異なるだとか、豆が違うだとか、根本から違うとか、いろいろ言われそうな考えであるけれど、基本茶色のおいしい飲み物
っ
てことは変わりないんじ
ゃ
ないか。
「厳密なものは専門店に任せておけばいいんだ
っ
ての」
俺は家の扉を開け、足早にマンシ
ョ
ンの階段へ向か
っ
た。すぐに帰
っ
てくるから鍵なんてしなくとも平気だろう。
「1人暮らし男子高校生のもとに、空き巣なんて来やしない来やしない」
体を冷やさんと襲
っ
てくる夜の寒さと冬の風を何層羽織
っ
た服で護り、しかし寒いので肩を震わせつつ、階段を駆け下りていく。このマンシ
ョ
ンは築20年だけあ
っ
てエレベー
ター
がなく、どんなに寒い風が吹こうとも、自分の足で降りるしか手段がない。
俺の住む最上階でも4階までしかないから、問題ないといえば問題ないのだが。
「ただ寒いのを我慢すればいいだけ。
……
っ
てそれが一番問題なんだけど」
1階まで降り、数メー
トル先に見える縁を赤く塗装された自動販売機へと足を運ぶ。
「ええ
っ
と、110円は」
ポケ
ッ
トから財布を取り出し、冷たい環境でも変わらず働いてくれる自動販売機に感謝しつつ、お金を投入した。金額に応じて自動販売機の一番下の段に並ぶ缶のボタンが光る。
「うう。さみ
っ
」
特に迷うことなく、悩むこともなく、ボタンを押した。「あたたかー
い」さえ満たしてくれていればいい。あとさ
っ
さと決めて暖かい我が家に帰るのだ。
この寒空の強行軍の戦利品を勝ち取るため、俺は腰を折
っ
て商品取り出し口に手を伸ばす。
「ん?」
奇妙なものを見て、眉をしかめた。
温かいを通り越して熱いカフ
ェ
ラテ缶を取り出し姿勢を戻しながら、それから目を離せなか
っ
た。
そこは紙幣挿入口で、本来なら千円札を挿入するのに用いるはずだ。自販機から出てくるときもあるが、それはうまく認識できない時やおつりの場合のみである。それも飲料の自動販売機だから千円札しか入れられず、おつりで紙幣は返
っ
てこない。
それなのに。
「なんか、出てきた?」
先程、俺が買うときには何もはい
っ
ていなか
っ
たはずだ。
おそるおそる挿入口から出てきたものに手を伸ばし、引き抜いてみた。少しだけ掲げ、自動販売機の光に照らしてみる。
「ただの、白い紙、だよな?」
真
っ
白で折り目も曲が
っ
た後もなく、きれいな一枚の紙が自動販売機から出てきた。サイズは千円札と同じくらいだろう。
カラン。
「おう
っ
」
硬貨返却口から何かが落ちた音が聞こえた。気の入
っ
ていないところからだ
っ
たのでち
ょ
っ
とだけびくついてしま
っ
た。
「なんだろ?」
この白い紙と同類か、それとも白い紙の謎を紐解く鍵か。
好奇心に誘われて手を突
っ
込み、指に触れたものを抜き取る。ゆ
っ
くりと、自分だけしかいないのにも
っ
たいぶらせるようにして、目の前まで持
っ
てきた。一度呼吸して、期待感を倍増させる。
またもゆ
っ
くりと手のひらを開いて、その正体を明らかにした。
「指輪かあ」
銀色の金属の輪に、茶色の宝石が乗
っ
たシンプルな指輪だ
っ
た。アクセサリー
の類に関してもあまり詳しくないし、興味もない。大方誰かの忘れ物なのだろう。
「が
っ
かりだな。
っ
てさむ!」
好奇心が治ま
っ
たと同時に体が現状を思い出したのか、急に歯がかちかちと鳴らし始め、体が小刻みに震えてきた。
「寒い!」
熱い缶から表記の「あたたかー
い」温度にな
っ
た缶を両手で抱えつつ階段をダ
ッ
シ
ュ
で上り、鍵をかけていなか
っ
た自分の家へ駆け戻
っ
た。
リビングに座
っ
て缶を開け、猫舌に優しくな
っ
たカフ
ェ
ラテに口をつける。
「ああ、あ
っ
たけえ」
温かな液体が体に取り込まれるのを感じて、ほ
っ
と息をついた。
「さて、これどうしよ
っ
か」
目の前の机の上に置いたのは、白い紙と指輪。それと飲みかけのカフ
ェ
ラテ缶だ。3つを眺め、考えをまとめられず、カフ
ェ
ラテを再び飲む。
「うー
ん。白い紙はどうでもいいとして。指輪は必ず持ち主はいるよなあ。でも、あんなとこに落とすかあ?」
持ち主の指がとてもゆるゆるで、硬貨返却口のふたか縁にひ
っ
かか
っ
て落としてしま
っ
たとか。それともいたずらで指輪をしかけてみたとか。いくら考えてみても、納得できるようなものは思い浮かばなか
っ
た。
「ま、い
っ
か。ほんとに大事なら、あんなとこに落とさないか! なんか安
っ
ぽいし。それより」
興味はないとい
っ
ても、高校生にな
っ
たのだから少しはオシ
ャ
レしてみたい気持ちがあるにはある。
「ち
ょ
っ
と、ち
ょ
っ
とためしにね。いや俺が普段していくわけじ
ゃ
なくてね」
誰かに言い訳しつつ、右手の中指に指輪をはめてみる。おお、ぴ
っ
たり。
「なかなか似合うんじ
ゃ
ね?」
「あれ?」
抜けない。
一通り眺めて満足したので指輪を抜こうとすると、指にはま
っ
て抜けなか
っ
た。
「ふん
っ
!」
力を込めて引
っ
張
っ
てみても、抜ける気がしない。ぐりぐりと回してみても指輪が動いている様子が見えなか
っ
た。
「こんに
ゃ
ろ
っ
!」
渾身の力を振り絞
っ
て、肘を張
っ
て両側に引
っ
張
っ
てみる。
「こんのー
、抜けろ
っ
! あ
っ
!」
思わず、声が出てしま
っ
た。
指輪が抜けたんじ
ゃ
ない。力い
っ
ぱい引
っ
張
っ
ていたため、周りを気にするのを忘れていたのだ。だから、そう、肘が缶に当た
っ
てしま
っ
たのだ。まだ半分も飲んでいなか
っ
たカフ
ェ
ラテ缶に。
「やばいやばいやばい!」
急いでタオルを持
っ
てきて、こぼれたカフ
ェ
ラテを拭
っ
ていく。こんなことになるなら無理に指輪を抜くんじ
ゃ
なか
っ
た。
「ふー
っ
」
見えるあたりのカフ
ェ
ラテが吹き終わり、一息つく。俺の愛用ゲー
ム機もパソコンもひとまず無事だ。
「よか
っ
たよか
っ
た」
俺の代わりにカフ
ェ
ラテを飲んで茶色くな
っ
てしま
っ
たタオルを洗濯機に入れようと持ち上げて、気づいた。白か
っ
た紙もカフ
ェ
ラテを吸
っ
て茶色く変色していた。
「ん?」
その紙の異様さに、顔を近づけてみる。
ただ一様に茶色くな
っ
ているわけではなく、濃さが違う部分があ
っ
た。それも、規則正しく濃さが分かれていて、それがどうやら文字を形成しているようだ
っ
た。
未だ汁気がある紙を持ち上げて、記されている文字に目を通してみる。
「契約、書? 『このたびは弊社商品を、ご購入いただきありがとうございます』? なんだこれ? え
っ
とそれで」
意味不明な内容に、思考が止まる。ただ状況を把握しようと文章を読み上げる。
「『契約が成立いたしますと、お客様はいつでもカフ
ェ
オレを飲むことが出来ますが、代わりにカフ
ェ
オレ以外の飲み物を飲むことが出来なくな
っ
てしまいます』!? いやいや、意味がわかんなすぎでし
ょ
」
ツ
ッ
コミをいれつつ、契約書を読み進める。
「『仮に摂取いたしますと、胃酸が逆流して全てを吐き出そうとしてしまいますのでお気をつけください。それらをご理解の上、契約をお願いいたします』、か。なんだ、契約しなき
ゃ
いいのか、なあ、んだ」