初恋の人はヴァン・アレン帯を通過していった
携帯が震えたのですぐに飛びついた。今日は一日中、彼からの連絡を待
っていたのだった。私は恐る恐るラ●ンの画面を開く。
『ごめん、もう寝てた?』
中学時代の同級生だったイチローからのメッセージが表示されている。時刻は23:00で、普段の私なら確かにもう寝ている時間だったけれど、今日はずっと彼のことが心配で眠れやしなかった。
待ちに待っていた連絡だったのに、肝心なことが何も含まれていないので、私は聞きたいことをそのままストレートに聞いて良いのか不安になってしまった。
今日はイチローが受験した東京の某有名私立大学の合格発表日だった。結果が出たら真っ先に私に教えてくれると言っていたので、一日中その連絡を待っていた。イチローは中学の時から学年で一番優秀だったし、大学受験の模試でもいつも合格判定はAだと聞いていたから、私は全く心配していなかったのだけれども、合否は午前中にはもうインターネットで確認できていたはずなのに一向に何の連絡もないから、もしかして、もしかして……なんてハラハラしていたのだった。
「起きてるよ」
とだけ返したけど、既読になってから45秒経っても返信がなくて、いてもたってもいられず、
「大丈夫?」
と続けて送った。今度は10秒で返信が来た。
『大丈夫』
それからすぐに、
『大学、受かってた』
と続いた。
「よかったね!おめでとう!」
クマがバンザイしているスタンプと一緒に送った。
『ありがとう』
「そっか、イチローも春から大学生かあ」
「東京、行っちゃうんだね」
そう打って送信してから、急に寂しさが込み上げてきた。私は高専生だから、これから二年はずっと地元にいる。今までも別の高校に通っていた上に受験生だったイチローとは頻繁には会えていなかったけど、東京に行ってしまったら、もっと遠くなる。
既読になってからたっぷり90秒経ってから、イチローから返事がきた。
『あのさ、明日、会えるかな?』
『話したいことがあるんだけど』
「えっ何?」
「今じゃだめなの(クマの頭上にハテナが浮かんでいるスタンプ)」
『大事なことだから、直接会って話したいんだ。ダメかな?』
「わかった、明日、暇だよ、大丈夫」
私はなんだかドキドキしてきた。明日は2月14日だった。合格発表が控えているイチローに約束取り付けるなんて悪いかな、と思って黙ってたけど、実はいつデートの誘いがあっても良いように、すでにガトーショコラを作ってラッピングを済ましてあるのだった。
イチローとは中学の時からずっと5人ほどの男女の仲良しグループでつるんでいて、腐れ縁みたいな関係だったけど、私はずっと男の子として意識していたし、周りの子たちにも、付き合っちゃえよ、なんてはやし立てられちゃうような関係だった。イチローも絶対、私の事は嫌いじゃないと思う。でも、なんだかタイミングがなくて、どちらからも、恋人の関係に踏み出そうなんて言い出すことがないまま、6年間今の関係が続いてきた。
でも、4月になってイチローが東京に行ってしまったら、今まで通りにはいかなくなる。
大事な話って何だろう。期待していいんだろうか。
待ち合わせの時間と場所を確認する手が震えた。
世界一美しいと言われる駅裏のス●バは混んでいた。座れる席があったのはラッキー。さすがに客はカップルばっかりで、私たちも周りから、高校生カップルだと思われてるかな、と思うとテンションが上がった。とびきりのおしゃれをして行ったら、イチローはスカート珍しいね、かわいいよ、と言って笑ってくれて、そんなこと言ってくれたことなんて今までなかったのに、と思いながら、嬉しくて、頬がかっと熱くなった。包みを渡したら喜んでくれた。
「ありがとう」
それから、何か考えるように、スターバックスラテの入ったカップを見つめて沈黙しだした。
私はしびれを切らして、話をせかした。
「話したいことって、何」
「うん……」
イチローは尚も数秒ためらうように沈黙した後、切り出した。
「ごめん、マナミ、今まで、ありがとう。もう、お前とはこうやって会うことはできないんだ」
「……えっ? は? なんで?」
思ってもみなかった言葉に、私は間抜けな声を出す。
「なんで?」
もう一回そう言うと、イチローは急に頭を深々と下げた。
「大学に行ったら、もう、ここには戻ってこれない」
「えっいや、何言ってんの、東京でしょ、ホワイトデーに新幹線も開通するし、めっちゃ近くなるじゃん、どういうこと」
「違うんだ……ごめん、俺、ずっと、上●大学受験するって言ってたけど、嘘なんだ」
「えっ? じゃあ一体どこの大学に行くの?」
突然のことに私の頭は大混乱していた。なんでそんな嘘つくの? と思ったし、別に東京以外の大学に行ったって、イチローがここに戻ってこなくなる理由にはならないんじゃないの?
「実は、俺が春から行く大学は、ここから40億光年離れたポポロン・ティラティラ星雲にあるレレリプロポン工科大学なんだ。俺、実は宇宙人なんだ。6年前、留学生としてこの星にやってきたんだ。俺、ブリプリデラボボガ星の王位継承者で……」
「はぁ? ちょっとまって意味わかんない、てか、何それ、信じられるわけないじゃんそんな話、何言ってんの、私の事好きじゃ