てきすとぽい
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第25回 てきすとぽい杯〈てきすとぽい始動3周年記念〉
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博士の告白
(
多千花香華子
)
投稿時刻 : 2015.02.14 23:46
字数 : 1657
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博士の告白
多千花香華子
博士、と形容したくなる男が立
っ
ていた。
白い蓬髪の下に分厚いメガネをかけ、白衣を着ている。
実際にこの男は博士だ
っ
た。
精神工学博士、新渡戸四郎。
精神工学とは実在すら怪しまれている学問だ
っ
たが、新渡戸博士は旧共産圏の秘密私大において、その学位を取得していた。
新渡戸博士は指につまんだ結晶状のものを、やはり白衣を着ている若い女に見せながら言
っ
た。
「白百合くん、まずわたしが告白しよう
……
」
清楚な佇まいの若い女、白百合くんは小首をかしげて尋ねる。
「なんですか博士らしくもない。改ま
っ
て
……
」
「数日前、キミが居眠りをしているあいだに、改造手術を施した」
「ええ
っ
、ヒドイ! なんで勝手にそんなことするんですか
ぁ
ー
!」
「脳外科手術など、キミは許してくれまい」
「あたりまえです! そんな危ないこと!」
「でもしち
ゃ
っ
た
……
」
白百合くんは青ざめた。
この博士ならやりかねないと察していた。
ふらふらと立ちあがりながら言う。
「わたし
……
ち
ょ
っ
とお医者さんに行
っ
てきます
……
、手遅れかもしれないけど
……
」
新渡戸博士は待
っ
たをかけた。
「少し待ち給え白百合くん! ぼくの話を聞いてからでも遅くはない!」
「じ
ゃ
、いちおう聞きます。話してください」
博士は天井を仰ぎながら恍惚とした表情で口を開く。
「ぼくには夢がある。人の秘密を知りたい。そして同時に人と人が精神世界でつながりあ
っ
ていることも証明したか
っ
た
……
」
「だからとい
っ
て脳外科手術なんてやめてください!」
「ごめんよ、白百合くん。でももう終わ
っ
たことなんだ。キミの前頭葉にこの装置を組み込んだ。あとは起動するだけなんだ」
白百合くんは怯えながら尋ねた。
「い
っ
たいどんな働きをするものなんですか
ぁ
ー
……
?」
「このスイ
ッ
チを入れれば、キミはぼくに秘密を告白せずにはおれなくなる。そして実験が成功すれば、衝動は精神世界を伝染して、キミの知り合いもぼくに秘密を明かさねば、いてもた
っ
てもいられなくなるんだ
……
」
「そんな、やめてください、そんなこと!」
「もう遅い!」
博士は手の中で弄んでいた結晶状の塊を捻
っ
た。
白百合くんが「あ
っ
!」と声をあげる。
それからもじもじした様子で、口を開いた。
「博士、ごめんなさい
……
、博士にいれていたお茶、いつも雑巾の絞り汁を使
っ
てました
……
」
「お、おう
……
」
それだけ言うと白百合くんは伸びをした。
「言
っ
たらなんか眠くな
っ
てきち
ゃ
っ
た
……
」
そう言
っ
て奥の仮眠室へ消えていく。
新渡戸博士は悄然としながらも、佇立して待
っ
た。
不本意な告白ではあ
っ
たが、実験の第一段階は成功した。次は想定通り、衝動が伝染するかだ
っ
た。
数分後、博士の電話が鳴
っ
た。
「はい、新渡戸ですが」
電話から初老らしい男の声が聞こえた。
「新渡戸博士ですか? わたしは白百合の父なんですがお話したいことがあります」
白百合くんの関係者からの告白だ
っ
た。
実験は成功だ!
衝動は精神世界を伝染する!
博士は電話の相手へ話を促した。
白百合くんの父親はおずおずと秘密を喋
っ
た。
「じつは、わたくしとあなたの奥さんは三年前から男女の関係でして
……
」
「お、おう
……
」
「あー
、言
っ
たらす
っ
きりして眠くな
っ
てきた。じ
ゃ
」
そこで電話は切れた。
不本意な告白だ
っ
たが、実験は成功した。
でも、新渡戸博士はあまり嬉しくない気がした。
それから何度も電話が鳴
っ
た。
次からは日本語じ
ゃ
なか
っ
た。
英語、ポルトガル語、タガログと続く。
博士は語学に精通していたので、すべての話がわか
っ
た。
とりたてて面白い話でもなか
っ
た。
新渡戸博士は気分転換しようと、テレビのスイ
ッ
チを入れた。
画面の中で、慌ただしい雰囲気の臨時ニ
ュ
ー
スが流れていた。
黒覆面の男がマイクに向か
っ
て喋
っ
ている。
女が同時通訳していた。
「ドクター
・ニトベに告白します。我々はロシアから入手した核弾頭をアメリカ、シカゴへ持ち込みました。爆破予定時刻は
……
」
それから一週間ののち、新渡戸博士は大統領から感謝状をもらうことにな
っ
た。
博士はこの世が思い通りにいかないことを悟り、余生は実験の秘密を隠してひ
っ
そりとすごしたという。
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