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コンビニ店員
私、セブンイレブンで、深夜のアルバイトを日・水・金でや
っておりまして。
えぇ、その時のことは、よーく憶えておりますよ。
深夜のお客様は少ないですからね。
その時は、丁度冷凍室へナマ物を載せた運搬用の台車を押して、搬入しようとしていたところだったんです。
そうしたら、いきなり、私より背が多分10センチくらいでしょうかね、高い同い年くらいの男性が入ってこられまして。
売り物のカッターを突然開封して、私に向かって「動くな!! 両手を挙げろ」って突きつけてこられたんです。
そりゃもう、びっくりしましたよ。
とりあえず両手を上にはしましたけど、このままじゃいけないと思いましてね。
「レジへ行かないとお金はあげられません」って言ったんですが「そんなことはどうでもいい」と言われてしまいまして。
「人を一人殺した奴にとっては、二人目なんて、理由なく殺せるもんだ」って、その人言ったんです。
私が「どうすればいいんですか?」と聞いたら、「動くな、俺の前を歩け、レジの方へ」って、カッター突きつけられたままあるかされまして。
でも私、とっさに……こう挙げていた手を、陳列してある商品の棚の、一番上の部分、あれにぶつけて、侵入者の頭の上にありったけの商品を落としてやりました。
当然、彼は怯みましてね。
で、その隙に私は距離を取って、その……最近はうち、野菜とかも売ってるんですけどもね、野菜を入れてあるタライ、あれを持ち上げて、野菜とか入ったまま、思いっきり相手の頭に打ちつけまして。
完全に怯んだ相手から、カッターを取り上げようとしたんですが、まだ必死に振り回そうとしていたんで、二度三度、なんどもタライで頭をなぐりまして。
最後はタライがあたった時に、その勢いで彼自身のカッターが、こう……彼に突き刺さってしまいまして。
死んで……なければ良いのですがね。血って、刺さり場所によっては、赤いんですね。もっと黒色なのには、日常生活でもお目にかかるし慣れていたんですが、赤い血は確か切ったらとまらなくてやばい奴ですよね。
多分……彼はもう駄目でしょうね。
気の毒に……。2 / 3
俺は、逃走中だった。
すでに殺した後だったんだから、更にもう一人殺そうが二人殺そうが同じだった。
現場の防犯カメラは、あらかじめテープで隠してあったから、俺の犯行はばれないはずだ。
ただ、あの場所にいつづける理由はもはやない。
暇つぶしで人を殺したっていいじゃないか。いやこれは、俺の性癖なのかもしれない。だとしたら仕方ないじゃないか。
そんな奴も世の中にはいるのだ。俺だって俺の人生を生きてるんだ。
と、そう思いながら、この教会に来る道を進んでいた途中、よく見知ったコンビニの灯りが、目に入ったんだ。
中ではもう一人の従業員は、休憩中なのか、一人で働いている店員の姿が見えた。他にこの時間帯、客もいない。
閃くものがあって、俺はその中に入っていった。
俺は、入り口近くの商品棚にあった、カッターを手にとってね。
そのまま、一人で作業をしている店員に近づいて、こう言ったんだ。
「向こうのセブンの店員です。さっきシフトで店に向かったら、不振な男が、俺の同僚を殺して、運搬車に詰めてたんです。俺……その男はこのカッターも持ってて……俺、死に物狂いで戦って、相手を……どうなったかは分からないんですけど、助けてください!!」
って。
そしたらそのローソンの店員は、血相変えて、「とにかく様子を見に行くから、ここで安全にしていてください」
って俺をおいていってな。
まさか大人しくしてるわけないだろ?
少しでも時間を稼ぐために、俺はすぐにローソンを出たよ。
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「なるほど。監視カメラはその男が細工した、同僚をあらかじめ殺すために、自分はそこへ鉢合わせただけ、という筋書きですか……」
「それにしても、日本の教会でも、こうやって懺悔って聞いてくれるんだな。神父さんって、警察には言わないでいてくれるんだっけか。自首するかどうかは、ま、これから決めるよ」
私は懺悔室で、その男の告白の内容を理解した。
彼がその気にならなければ、真相は永遠に藪の中になってしまうのだろう。しかし、告解は警察にも他言しないように誓約している。これは秘蹟なのだから、警察にも言えないことだ。
「それにしても……本当に、人格が切り替わるみたいに、話し方が変わりますね」
「なんつーか、俺その時の自分のモードになった方が、その時のこと思い出して喋りやすいんだよ」
「それにしたって、声のトーンまで、あなた完全に別人でしたし」
「なんなら、もういっぺんお披露目してやろうか?」
濁声がやみ、少し間を空けると、溌剌としたまるで別人のような澄んだ声で、男は再びしゃべりだした。
懺悔質の構造上、顔まではっきりとは見えないが、セブンイレブンのエプロンをしたその男は、きっとそれはそれはにっこりと営業用の笑顔でいるのだろう。
「えぇ、えぇ、焦りましたよ。あの時は。暇つぶしに絞殺した同僚を、運搬車に詰めて冷凍室へ運ぼうとした、その矢先に入ってきたお客さんに目撃されてしまった、その時は……。一人殺した者は二人でも殺す、って実に名言でしたね。えぇ、彼が私にした警戒は、とても正しかった。間が抜けていたのが、彼の運のつきでしたが……」