第26回 てきすとぽい杯
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愛を育てる
みお
投稿時刻 : 2015.04.11 23:42
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愛を育てる
みお


 私が恋をした女は、巨躯の人である。
 綺麗な女である。しかし、背は私より随分高い。着物越しに見える、腰周りもどしりと逞しい。
 しかし結い上げた髪の後れ毛も、愛らしい人である。
 声をかければ、花のようにはにかむ。囁けば俯く。「自分のような女をからかてはいけない」と、そう言て逃げる。
 愛らしさに愛を伝えれば、彼女はほろほろと涙を流した。
「いけない、私には奇病があるのですから」
「奇病?」
 彼女はすうと息を吸い込み、息をすうと吐く。そして切れ長の目で、私をはたと見つめた。
「貴方は地球をご存じですか」
「さて」
「この地です」
 とん。と彼女は地面を踏みしめた。
 それだけで、大地が揺らめき私の身体がふわりと浮かぶ。その地響きに、驚く。顔を上げれば彼女の顔は、ひどく高いところにある。
 ……さて。彼女の身体はこんなにも、大きかただろうか。
「この大地を海を風を、土を木を花を、人を、貴方を、私を、地球というのです」
「はじめて聞いた」
 私はその奇妙な言葉に、首を傾げる。そのような名前、はじめて耳にした。
「それと奇病とどんな関係が」
「愛を覚えると、私の身体がどんどんと大きくなるのです」
 彼女は、まるで秘密を打ち明けるかのように、呟く。
「雨で育つ木々のように」
 だから誰も愛してもならぬ。彼女は母に、そうきつく言われて育たのだという。
「それが地球とどう関係が」
「地球、半分の、半分の……半個分」
「はあ」
「愛を一度知ると、私の背が伸びます」
 私は眩しく彼女を見上げる。気がつけば、彼女の背は、私を遙かこえて、隣の木々をこえ、家をこえ、遙か高みにある。
 それでも、遙か遠くに見えるその顔は、やはり愛らしいのである。
「それでも」
 ほろほろと零す涙は雨となり、大地に注ぐのである。その涙に塗れながら、私は叫ぶ。
……好きだ」
「愛を二度知ると、地球の半分の半分……」 
 彼女の身体がまた、伸びた。風を切る音が私の耳に響く。
「大きな女を、誰が愛するのでしうか」
 だからこれまで、誰も愛さなかたのです。愛することが恐ろしかたのです。彼女はそう言て、切なく泣いた。
 しかし、彼女の身体は確実に伸びている。つまり、私の愛は彼女に届いたのである。
 口では何と言ていようと、彼女は私を愛しているのである。
「私が」
 彼女の顔は、やがて薄曇りの霧の向こうに隠れた。
「それでも好きだ」
 叫んだ私の声が彼女に届くだろうか。願いを込めて、私は叫ぶ。
「好きだ」
 彼女の身体はいまや、地球の半何個分になるのか。ずりずりと大地に沈み、まるで根を張り天を貫く一本の木。その身体に、鳥が集い虫が這う。
「さあ」
 私は、彼女の根元に座り込み、大地に沈んだ足を愛おしく撫でた。
「私があなたに愛を教えて、そうして、あなたを育てよう」
 大きくなればいい。それが、私に対する愛の答えであるのなら。
……
 彼女の言葉はもう聞こえない。
 ただ、喜びの涙が私に注いだ。
 それが、彼女の愛の答えであた。
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