てきすとぽい
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【BNSK】月末品評会 in てきすとぽい season 3
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Black Swan Song
(
木下季花
)
投稿時刻 : 2014.05.31 22:38
最終更新 : 2014.06.01 02:46
字数 : 17505
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2014/06/01 02:46:25
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2014/06/01 02:42:12
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2014/05/31 23:46:38
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2014/05/31 22:40:39
-
2014/05/31 22:38:15
Black Swan Song
木下季花
自分とそ
っ
くりの姿形を持つ人物が目の前にいたら、あなたはどう思うのだろうか。戸惑うだろうか。怖れるだろうか。見て見ぬふりをするだろうか。怯えて逃げるだろうか。サイコパスの様に、相手を殺そうとするのだろうか。あるいは仲良くなろうとするのだろうか。しかし、それらは全て、人間の反応として正解であるように私は思う。ド
ッ
ペルゲンガー
のごとき存在が目の前に居たら、誰だ
っ
て正常ではいられないだろう。しかし、一卵性双生児として、自分とま
っ
たく同じ姿を持つ者同士として生まれた姉妹のそれぞれは、一体どう思うのか。あなたに想像がつくだろうか。姿形がま
っ
たく一緒の身内。物心ついた時にお互いの姿を見る姉妹。そして自分の姿を改めて鏡によ
っ
て確認したそれぞれの女の子。彼女たちは一体全体どういう風に思うのか。私はその経験をしている。私と姉は、全く同じ顔と体型をしているのだ。そんな姉妹の片割れとして言わせてもらうと、私は容姿が同じ姉のことが心から大嫌いだ
っ
た。幼いころは気にしなか
っ
た。しかし学校に通うようにな
っ
てから、明らかな優劣が出始めてしま
っ
たのだ。成績。人間性。コミ
ュ
ニケー
シ
ョ
ン能力。姿形以外の、明らかな能力の差というのが現れた。そして私はそれら全てで姉に劣
っ
てしま
っ
ていた。姉は人気者で、私は双子のダメな方と言う扱いを受け続けてきた。自然と、その状況に陥
っ
た私は姉を疎ましく思うようにな
っ
た。姉に対して強烈に嫉妬し、そして心から嫌うようにな
っ
た。何で容姿が一緒なのにこれほどの差が出るのか。そして周りの者は何かと言うと、私と姉を比べ、私の不器用さを嘲
っ
た。姉をひたすらに誉め、私だけを馬鹿にした。容姿が一緒だと、どうしても比較対象として扱いやすいらしい。そんな周りからの扱いに耐えかねて、私は姉などいなくな
っ
てしまえばいいと常々思
っ
ていた。姉の方は私をどう思
っ
ていたのだろう。姉の事だから、私のことなど気にしていなか
っ
たかもしれない。私をいないものとして見ていたかもしれない。あるいは私をいいカモと見ていたか。結局いくら考えた
っ
て、私には姉の心など分からない。同じ姿であ
っ
ても、他人であるからだ。皆は双子の姉妹がよくテレビで扱われているように、お互いの心の内が読めるように思
っ
ている節があるのだが、一卵性双生児の双子であるからと言
っ
て、私には姉の考えることなど分からない。着る服だ
っ
て違うし、聴く音楽だ
っ
て違うし、男の趣味だ
っ
て違うし、姉はただ遺伝子を共有する他人に過ぎない。ここまで性格の違う双子がいるのも結構珍しいことではあるらしいのだが。
さて、最初の問いについて答えてみよう。もし私たち姉妹が全くの他人だ
っ
たとして、お互いに街中で出会
っ
てしま
っ
たのなら。私は、そのド
ッ
ペルゲンガー
のごとき人物を二度見し、怯えたように後ずさるか、あるいは見て見ぬふりをして、走り去
っ
て逃げることだろう。
本当にそうできればいいのだけれど。しかし自分で答えておきながら、その想像をすることにま
っ
たく意味など無か
っ
た。それは不毛な仮定でしかない。私たちはどうあがいても、生まれた時から一緒に過ごしている家族だ。そして同じ遺伝子を持つ姉妹なのだ。故に、その結びつきは簡単には解けない。だから、私は死んだように生きるしかなか
っ
た。何故なら私は姉よりも劣
っ
ているのだから。
「それじ
ゃ
あ行
っ
てきます」
姉はいつも朝の六時五十分ぐらいに家を出る。テニス部の朝練に出るためだ。高校に入
っ
ても真面目に運動を続けるなど私には信じられない。そして一緒の高校に通
っ
ていると言うことも。
そもそも、私は姉とは違う高校に行くはずだ
っ
たのだ。しかし勉強が出来ない私にと
っ
て、入れる高校の選択肢は限られていた。その少ない選択肢の中でもなんとか偏差値的にマシな高校に入
っ
た。入ることが出来た。物凄く勉強したのだ。必死に勉強して、何とか自分のプライドは保てるレベルの高校に入ることが出来た。これで姉と比べられる生活ともおさらばだと思
っ
て、私は狂喜乱舞したのを覚えている。そんな喜びに浸
っ
ている時に、姉が無慈悲にも両親と私に告げたのだ。「私も由希ち
ゃ
んと一緒の高校行くよ! 心配だからね。由希ち
ゃ
んは私がいないと何にもできないんだもん」。そのわけの分からぬ理屈を通して、私のいる高校に入
っ
てきやが
っ
た。受か
っ
ていた県内偏差値ト
ッ
プの高校を蹴
っ
て。そして私が通うことにな
っ
た高校の特待生として、海外進学コー
スと言うエリー
トしか入れないクラスに入りやが
っ
た。姉はどうせチヤホヤされたいだけなのだ。偏差値ト
ッ
プの高校を受験したのだ
っ
て、ただ勉強が出来る事を見せつけたか
っ
ただけだろうし。いつもみたいに優越感に浸るべく、偏差値ト
ッ
プの高校を蹴
っ
て、妹の為に私立の高校に入
っ
た素晴らしい家族思いの姉としてデビ
ュ
ー
したいだけなのだ。そして姉は私のいる高校で、劣
っ
ている私を踏み台にして、人気を得るためのダシに使い、高校生活においても周りのアイドルになろうとしている。面倒見のいい優秀な姉。人当たりの良い美人。妹と違
っ
て優しい姉。そのような評価を得るために。そうだ。き
っ
とそうに決ま
っ
ている。ああ、本当にいい加減に私から離れてくれないかと思う。これ以上、私を惨めな気持ちにさせないでくれ。あなたは優秀なんだから、自分一人でや
っ
ていけるはずだ。私なんかに構わずに、あなたはあなたの人生を送
っ
てくれ。私はもう、双子として比べられるのは嫌なんだ。そんな暗い気持ちを思い返しながら、私はもそもそと朝ごはんを食べ、憂鬱な気分で朝のワイドシ
ョ
ー
の占いを見、そしてぎりぎりの時間を目指して学校へ向か
っ
た。
一か月前に始ま
っ
た高校生活にて、私には一人だけ友人と呼べる存在が居た。
その子の名前は永沢加奈。クラスで一番成績が悪く、万引きなどの軽犯罪を私に自慢したり、援助交際などもしたり(クラス内ではあくまで噂レベルだ
っ
たが、友人である私は彼女が本当にそれをしているのを知
っ
ている)、嫌いな先生を平手で叩いて入学早々に三日間の停学処分を受けたり、髪を染めていつも校門で注意されていたりと、ま
っ
たくも
っ
てアウトロー
な子だ
っ
た。それが私の唯一の友人だ。そんな社会的に迷惑をかけている彼女が、どうして私立の学校へ来られたのかと問えば、親が金持ちであり、入れるのがここくらいしかなか
っ
たから、と言う事だ
っ
た。金の力はすごい。世の中、結局は金で何とかなる。もちろんそれは彼女の力じ
ゃ
ないけれど。
彼女と出会
っ
たのは入学式の日だ
っ
た。入学式が終わ
っ
てクラスに向かう途中、私は誰にも話しかける事が出来ず、ず
っ
と辺りを窺いながら歩いていた。そうしたら周りの平凡然とした女子どもには目もくれず、加奈が私の元へや
っ
てきて、話しかけてきたのだ。「同じクラスだよね、よろしく」と。
私はび
っ
くりして、どうして私に声を掛けたの? と思わず訊ねてしま
っ
た。
加奈は笑いながら、「なんだか世の中のすべてを呪
っ
てそうな目が、好意を持
っ
た」と答えた。私はその時、どう反応したらいいのか分からず曖昧に笑
っ
てしま
っ
た。
そんなに世の中を呪
っ
てそうな目をしているのか、私は。少しシ
ョ
ッ
クだ
っ
た。が、友人らしき人物が出来たのは嬉しか
っ
た。なにしろ今まで私は孤独だ
っ
たのだ。
それから私たちはお互いに会話を交わすようになり、親友にな
っ
た。
始業五分前くらいに教室に着くと、加奈が私の席に座
っ
て何やら本を読んでいるのが見えた。周りの生徒は彼女と目を合わさないようにしている。遠巻きに小声で悪態をついている女子も少なからずいた。が、加奈はそのような人物の事は端から気にしていないようだ
っ
た。以前、ヒソヒソと加奈の悪口を言う奴のことを告げ口した時に、加奈自身は「あいつらはさ、自分が正しい人物だ
っ
て周りにアピー
ルしたいだけなんだよ。群れからはぐれないようにさ。私みたいな異端なやつを罵ることで、自分たちは正常であり、正しい感覚を持
っ
てる人物です
っ
てアピー
ルしてんだよね。そういう人
っ
て、友達とかは作れるけど、結局社会において、みんなと同じように生きる事しか出来ないんだと思うよ」と言
っ
ていた。みんなと同じように生きられるだけでも素晴らしいと私は思
っ
たのだが、加奈としてはみんなと同じように生きるのは嫌なようだ
っ
た。だから強く、孤高に生きている。自分からその立場に立
っ
ている。そこが私とは違うところだ
っ
た。
「おはよう」
私がそう言うと、加奈は読んでいたフ
ァ
ッ
シ
ョ
ン雑誌から視線をあげて「おお、ユ
ッ
キー
。おは」と明るい声で言
っ
た。ムラのない金色に染められた髪が、微かな風になびいている。
「今日は遅刻しないんだ?」
私がそう言うと、手慰みに雑誌のペー
ジを手繰りながら加奈は答えた。
「ああ、寝不足だ
っ
たからさー
、昨日は早めに寝たんだよねー
。そしたら早く目が覚めち
ゃ
っ
た。一昨日はバイトの所為であまり眠れなか
っ
たし」
加奈の言うバイトとは、援助交際の事だ。加奈は月に三度ほど援助交際をして、九万円ほどを稼ぐ。今時援助交際をする子なんて居るの? と以前に聞いたら、意外に援助交際をする子は多いのだと言う。そしてその中の大半は、遊び感覚でやる、セ
ッ
クスが好きな子が多いのだとか。私にはわからない世界だ
っ
たが、しかし惹かれる部分もなくはなか
っ