てきすと怪 2015
 1  2 «〔 作品3 〕» 4  11 
首切り地蔵
茶屋
投稿時刻 : 2015.08.15 12:20
字数 : 2727
5
投票しない
目次
 1 
 2 
全ページ一括表示
1 / 2
首切り地蔵
茶屋




 私の住む地区には「首なし地蔵」があるという。
 そんな伝承を数年前に地元の地史を読んで知た。
 「首なし地蔵」、なんともおどろおどろしい名前の史跡である。
 ふと、最近になて、その史跡を訪ねてみようという気持ちが湧いてきた。
 私は心霊や怪談といたものを好む性分なのだが、己自身が不思議な体験をしたというのは殆ど無い。
 奇妙な現象に遭遇したい、という気も無いわけではなかた。
 だが、のちに伝承にも触れるように、おそらく何らかの供養のために建てられた地蔵なのだ。
 奇妙な現象を期待するというのはいささか不遜、不敬であろう。
 故に、純粋に史跡を訪ね、拝むということにする。
 だが、期待がないわけではない。もしかしたら、何か奇怪なものに遭遇できるのではないかという気持ちも完全には失せきれていないのだ。

 さて、この「首なし地蔵」の伝承について、簡略に概要を記す。
 この伝承について触れた地史は実家に二冊ある。曽祖父が郷土研究会に入ていたらしい。名前だけ、入ていたようなものだたらしいが。
 ともあれ、そんな所以で郷土史の本が実家にあるわけである。

 まずは、一冊目、年代の新しいものから。
 新しいとは言ても、発行は昭和六十三年三月、二十年以上前のものである。
 地蔵前、という地名があり、そこには三体の首なし地蔵様があたのだという。
 古老の伝承によると、その昔、渡辺伝左門という侍がいて、その周辺で辻斬を行ていたのだと云われている。
 その刀には朧月夜との銘が打たれていた。
 そんな話である。
 ところがこの地蔵、土地改良でどこかに移転され、現在では場所がわからなくなているというのだ。
 
 もう一つ、ある。
 こちらは昭和五十一年八月発行。更に古い。前述の資料より約十年前である。
 十年前のものならば同じ伝承が載ていそうだが、違う伝承が載ている。
 そして「首なし地蔵」でなく、「首切り地蔵」なのである。
 伝承はこうだ。近隣の領主の若殿が元服祝いに刀をもらう。この若殿、若いゆえか残虐な性分の持ち主だたのか、もらた刀で試し切りがしたくなり、家来に適当な人を探させる。すると旅の虚無僧が、毎夜、同じ道を通ていることがわかる。これ幸いと、若殿は家来を引き連れ、虚無僧を待ちぶせ、一刀のもとに虚無僧の首を切り落とした。翌朝、家来が確かめに行くと、胴体だけが残ていて、首はいくら探しても出てこなかたそうな。
 現在はF神社に移されているという。

 ここでふと疑問がわく。
 この二つの伝承は、果たして同じ地蔵について述べられているのか。
 三体の「首なし地蔵」と何体かはわからない「首切り地蔵」。
 そもそも伝承からして供養のために建てられたと思われる地蔵であるのに、首がないのはなぜか。
 もしかしたら「首なし地蔵」と「首切り地蔵」は別のものであるまいか。
 そして、「首切り地蔵」の方には首があるのではなかろうか。
 だが、三体の「首なし地蔵」の場所については手がかりがない。
 地区のコミニテセンターにメールで問い合わせたのだが、返答はなかた。
 そこでまずはF神社に移されたという、「首切り地蔵」の探索を行うこととした。
続きを読む »
« 読み返す