てきすとぽい
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てきすと怪 2015
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首切り地蔵
(
茶屋
)
投稿時刻 : 2015.08.15 12:20
字数 : 2727
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目次
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首切り地蔵
茶屋
序
私の住む地区には「首なし地蔵」があるという。
そんな伝承を数年前に地元の地史を読んで知
っ
た。
「首なし地蔵」、なんともおどろおどろしい名前の史跡である。
ふと、最近にな
っ
て、その史跡を訪ねてみようという気持ちが湧いてきた。
私は心霊や怪談とい
っ
たものを好む性分なのだが、己自身が不思議な体験をしたというのは殆ど無い。
奇妙な現象に遭遇したい、という気も無いわけではなか
っ
た。
だが、のちに伝承にも触れるように、おそらく何らかの供養のために建てられた地蔵なのだ。
奇妙な現象を期待するというのはいささか不遜、不敬であろう。
故に、純粋に史跡を訪ね、拝むということにする。
だが、期待がないわけではない。もしかしたら、何か奇怪なものに遭遇できるのではないかという気持ちも完全には失せきれていないのだ。
さて、この「首なし地蔵」の伝承について、簡略に概要を記す。
この伝承について触れた地史は実家に二冊ある。曽祖父が郷土研究会に入
っ
ていたらしい。名前だけ、入
っ
ていたようなものだ
っ
たらしいが。
ともあれ、そんな所以で郷土史の本が実家にあるわけである。
まずは、一冊目、年代の新しいものから。
新しいとは言
っ
ても、発行は昭和六十三年三月、二十年以上前のものである。
地蔵前、という地名があり、そこには三体の首なし地蔵様があ
っ
たのだという。
古老の伝承によると、その昔、渡辺伝左
ェ
門という侍がいて、その周辺で辻斬を行
っ
ていたのだと云われている。
その刀には朧月夜との銘が打たれていた。
そんな話である。
ところがこの地蔵、土地改良でどこかに移転され、現在では場所がわからなくな
っ
ているというのだ。
もう一つ、ある。
こちらは昭和五十一年八月発行。更に古い。前述の資料より約十年前である。
十年前のものならば同じ伝承が載
っ
ていそうだが、違う伝承が載
っ
ている。
そして「首なし地蔵」でなく、「首切り地蔵」なのである。
伝承はこうだ。近隣の領主の若殿が元服祝いに刀をもらう。この若殿、若いゆえか残虐な性分の持ち主だ
っ
たのか、もら
っ
た刀で試し切りがしたくなり、家来に適当な人を探させる。すると旅の虚無僧が、毎夜、同じ道を通
っ
ていることがわかる。これ幸いと、若殿は家来を引き連れ、虚無僧を待ちぶせ、一刀のもとに虚無僧の首を切り落とした。翌朝、家来が確かめに行くと、胴体だけが残
っ
ていて、首はいくら探しても出てこなか
っ
たそうな。
現在はF神社に移されているという。
ここでふと疑問がわく。
この二つの伝承は、果たして同じ地蔵について述べられているのか。
三体の「首なし地蔵」と何体かはわからない「首切り地蔵」。
そもそも伝承からして供養のために建てられたと思われる地蔵であるのに、首がないのはなぜか。
もしかしたら「首なし地蔵」と「首切り地蔵」は別のものであるまいか。
そして、「首切り地蔵」の方には首があるのではなかろうか。
だが、三体の「首なし地蔵」の場所については手がかりがない。
地区のコミ
ュ
ニテ
ィ
ー
センター
にメー
ルで問い合わせたのだが、返答はなか
っ
た。
そこでまずはF神社に移されたという、「首切り地蔵」の探索を行うこととした。
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2015年8月15日
朝から太陽が照
っ
ていて、今日は一日暑くなりそうだなどと思いながら、煙草を吸うなどして朝を過ごした。
幸い県の神社庁のデー
タベー
スにF神社が載
っ
ており、住所は知ることができた。
ところが、である。
いざ出発しようとすると、土砂降りにな
っ
た。
ごうごうと雨が降り注ぎ、庭の砂利道が底の浅い川のようにな
っ
ている始末である。
今日は、無理か
……
。
半ば、諦めかけていたのだが、幸いにも雨が小ぶりにな
っ
た。書店で本を買う予定もあ
っ
たので、先に書店に行
っ
て目的の本を買う。
さて、いざF神社へ、と車のナビに住所を入れる。
意外にも、母校のすぐ近くであ
っ
た。
ナビに従い、車を走らせる。
ところが、ついた先はかなり狭い農道であ
っ
た。
「目的地付近に着きました。案内を終了します」
農道の真ん中で、非情にもナビはそう告げて案内を終えた。
しばらく走るが、農道である。畑と果樹園、そんなものしか見えない。
しかし、ふと横手に鬱蒼と茂る林が見えた。神社、仏閣特有の背の高い杉林だ。
だが、農道から車が入れるような道はない。
なので、再び表道に出て回りこんで入ろうと思
っ
たが、表の道からは、神社のようなものは見当たらない。
結局ぐるぐるまわ
っ
た末、道端に車を止めて、歩いて杉林を目指した。
やはり、神社であ
っ
た。民家の裏のようなところにあるため、表道からは見つけられなか
っ
たようであ
っ
た。
古く寂れた地域の神社特有の薄暗さを感じながら、名前を確認する。
目的のF神社である。
御祭神は木花咲耶姫命。
せ
っ
かく来たので拝む。
さて、目的の地蔵を探すが、なかなか見当たらない。
神社の脇に立つ、小さな供養塔か石碑が無造作に並べられている中に、それはあ
っ
た。
地蔵?
最初に思
っ
た感想がそれである。
普通、一般的に想像されるような石造りの地蔵ではない。
素焼きである。
あの特有の土器のような橙色。
ボロボロ、崩れかけた胴体は一部完全にかけて、穴も開いている。
首はある。
しかしその首は転げ落ち、手前側に置いてある。
確かに、地蔵と言われれば地蔵なのだが、どうにも想像とかけ離れていて、なんとも釈然としない気持ちにな
っ
た。
果たしてこれが「首切り地蔵」であるのか。
素焼きなので、石に比べれば鮮やかで、本当に古い時代のものかも判然としない。
確かに、不吉にも首は落ちているが、わざと落としたものではないのだろう。一度はセメントのようなもので修復されたようなあとも残
っ
ている。
わからない。これが目的の「首切り地蔵」であるのか。周囲を探しても、他に地蔵は見当たらなか
っ
た。
違うかもしれないが、そうかもしれない。
手を合わせて拝み、さらに心のなかで許しを乞うた上で、胴体と頭の写真を撮影してきた。
以下のURLがその写真である。
http:/
/
www.
fastpic.
jp/
viewer.
php?file=7265197299.
jpg
http:/
/
www.
fastpic.
jp/
viewer.
php?file=0617579576.
jpg
http:/
/
www.
fastpic.
jp/
viewer.
php?file=1871072637.
jpg
朽ち果てた姿が、哀れにすら思えてくる。
首を戻そうかとも考えたが、どうせまた落ちてしまうし、落下して割れたらそれこそ大変である。
地元の方が、保全に努めてくれるのを願うばかりである。
現在、特に奇怪な現象に遭遇するなどはしていない。
もし何かあれば、追
っ
て記すが、地蔵とは本来祟るようなものではない。
あまり期待してもらいたくはないし、私もあまり期待していない。
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