てきすとぽい
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第28回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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非難轟々
(
多千花香華子
)
投稿時刻 : 2015.08.16 05:21
字数 : 1000
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非難轟々
多千花香華子
「お婆ち
ゃ
ん、いいバ
ッ
グじ
ゃ
ん」
俺は言いながら、信号待ちをしていた婆さんのバ
ッ
グをひ
っ
たく
っ
た。
「ち
ょ
っ
と! 泥棒!」
「ヘイヘイ、ほほー
! ヘイ、ほほー
っ
!」
俺はバ
ッ
グを持
っ
た両手を上下に振り、スキ
ッ
プして踊
っ
た。
強盗だと思われることを避けるために、異様さを演出する。
俺を取り押さえようとする人はいない。
みんな遠巻きに様子を窺
っ
ている。
「いいバ
ッ
グでした!」
少し離れた場所へバ
ッ
グを置くと、ダ
ッ
シ
ュ
で逃げた。
背後からは非難の声があがる。
次の場所へ急がなき
ゃ
。
「お、かわいいバ
ッ
グじ
ゃ
ん! 見せて!」
俺はもう一度同じ手を使
っ
た。
賑わう通りで、女子高生のバ
ッ
グを奪う。
「なにするの、やめて!」
「ヘイヘイ、ほほー
! ヘイ、ほほー
っ
!」
スキ
ッ
プしながら女子高生に追わせて、数メー
トル離れる。
「じ
ゃ
、ここに置いとくから」
俺はバ
ッ
グを路上に置き、ダ
ッ
シ
ュ
。
「変質者!」
そうだろうとも。わか
っ
てる。
まだ、まわれる場所があ
っ
た。
「ボクち
ゃ
ん、おいしそうな飴玉だね」
五歳にな
っ
たぐらいの子供が、不安そうに見上げてくる。
手には柄つきのキ
ャ
ンデ
ィ
を握
っ
ていた。
俺は容赦しない。
キ
ャ
ンデイを手からむしりとる。
「れろれろれろれろ
ッ
! んー
、おいちー
っ
!」
舐めまわしたあと、あ
っ
けにとられている子供へキ
ャ
ンデ
ィ
を返す。
「いらないよ! 汚い!」
子供はキ
ャ
ンデ
ィ
を放り出して泣き始めた。
近くの店から母親らしき女が、電話片手に飛び出してきた。
「変態! 警察呼んだからね!」
ここでもダ
ッ
シ
ュ
で逃げる。
あと間に合うような場所は
……
。
家に帰
っ
てSNSをチ
ェ
ッ
クすると、俺の仕事がトピ
ッ
クにな
っ
ていた。
画像つきだ。
『真夏の変質者! 要注意!』
『都内各所で迷惑行為!』
『頭おかしい、被害が出るまえに逮捕しろ!』
『警察も行方を追
っ
ているようです』
あああ、非難の矢が俺に降りそそぐ。
さすがに心も折れそうだ。
でもしかたなか
っ
た。
婆さんを妨害しなければ、横断歩道を渡りき
っ
たところで自転車が突
っ
込んできて衝突していた。
女子高生をま
っ
すぐ行かせていたら、ガラの悪い三人組と肩がぶつかり、酷く殴られることになる。
ボクち
ゃ
んはキ
ャ
ンデ
ィ
をくわえたまま走りだし、転んだ拍子にキ
ャ
ンデ
ィ
で窒息していたはずだ。
俺にはそれが見えていた。
放
っ
ておけるわけがない。
すべてが救えるわけじ
ゃ
ないけどさ。
そのうえ非難轟々。
でも、できる限りはやらなき
ゃ
。
なんていうか、予知能力
っ
て難儀だよ
……
。
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