てきすとぽい
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第28回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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渚のラメント
(
大沢愛
)
投稿時刻 : 2015.08.15 18:23
字数 : 1000
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渚のラメント
大沢愛
一緒に海に行
っ
て、帰
っ
てこなか
っ
た子がいるの。
水泳部出身の子でさ、筋肉質だ
っ
たのが現役引退してしばらくすると、脂肪にな
っ
ち
ゃ
っ
て。お風呂から上がるたびに鏡を見て溜め息ついてたんだけど、これじ
ゃ
いけない
っ
て奮起して10㎏のダイエ
ッ
トに挑戦したの。
肩や太腿の丸
っ
こい筋肉がなくな
っ
て、なんだか骨張
っ
ていくのは淋しか
っ
たけど、プー
ルじ
ゃ
なくてビー
チ、タイムよりもボデ
ィ
ラインだもの。
頑張
っ
たよ。
うまくお
っ
ぱいは残
っ
て、いい感じにビキニもハマるようにな
っ
て、みんなと出かけたの。
波打ち際でビー
チバレー
や
っ
て、すごく楽しか
っ
た。
一人、気になる男の子がいたのよね。その子が水泳部だ
っ
たのを知
っ
てて「沖に出ようか」
っ
て誘
っ
てくれたの。
ドキドキしながら泳ぎだした。
ブイを超えて、人のいないところまで出て。波の音と水を掻く音、それに自分の息継ぎの音しか聞こえない。
ふと見ると、男の子がいない。
海の中でもがいているのが見える。
足が攣
っ
たんだ。
その子はすぐに潜
っ
て助けに行こうとした。そこで気づいたの。かつての筋力がないことに。
ブイまで泳いだだけで体力は半ばなくな
っ
ていて、その上、潜るのには結構力がいるの。でも放
っ
てはおけない。男の子のところまで潜
っ
て。無我夢中の男の子がしがみついてくるの。海の中で落ち着かせようとしても無理。このままじ
ゃ
二人とも溺れち
ゃ
う。
と
っ
さに、男の子と唇を合わせて、肺に残
っ
ていた空気を全部吹き込んだの。
男の子の身体が太陽の揺らめく方角へ浮き上が
っ
てい
っ
た。
代わりに空気を吐き出したその子の身体はず
っ
しり重くな
っ
てね。暗い方へ沈んで行
っ
た。
あんなにダイエ
ッ
トしたのに、何でこんなに重いんだろう。
そう思うとつい笑
っ
ち
ゃ
っ
て。胸の中に残
っ
ていたあぶくが一つ、口から漏れ出て男の子の後を追いかけて行
っ
た
っ
け。
だから、いい?
女の子は海に来るだけでそれだけ死ぬ思いしてるの。
中には私みたいに死んじ
ゃ
う子もいるんだから、いたわれ!
こんな時間まで岩場でいち
ゃ
つくな!
海水と日焼けでひりひりする上に砂で削られて、本当は一刻も早くシ
ャ
ワー
浴びたいんだからね。
分か
っ
た?
腰を抜かした金髪ロンゲを女の子が引きずるようにして、砂浜を去
っ
ていく。
また説教臭いこと言
っ
ち
ゃ
っ
たな。おばさんみたい。
でもね、生きていたらあの男の子だ
っ
てもう立派なおじさんだもんね。
ああ、夜光虫だ。
今夜は夜明けまで、ここでこうしててもいいよね。
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