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アイズ' ルーム
Problems
between survival and non-survival: value judgment by others
(他者の価値判断による生存と非生存における諸問題)
Survival in the world of human is closely related to necessity.
――Holly Leila Miriam Fleming
(我々人類世界の生存について考える時”必要性”が密接に関係している――ホリー・レイラ・ミリアム・フレミング)
Value judgment by others in cybersociety, I'm exaggerating a bit, but leads to handling copyright.
――Brian Ellis Hainsby
(電脳社会において、他者による価値判断は、極論で言えば著作権の取り扱いに通じるものだ。――ブライアン・エリス・ヘインズビー)
About survival in the world, human ought to realize deeply, the environment which we can deprecate
――Alan Irvine Saunders
(生きることについて我々人類は軽視できる環境にいることを深く自覚すべきである。――アラン・アーヴィン・サンダーズ)2 / 8
アイズ‘ ルーム
そこは小さな部屋です。
ベッドとか、テーブルとか、その程度のものが置いているだけの部屋。
その部屋の床には、1人の男の人が、ぐったりと力のない様子で横たわっています。
わたしたちは、彼のそんな様子が映し出された画面をぼんやりと見ています。
この放送が始まったのはいつのこととか、誰がこんな放送をしているのかとか。
それは誰にも分りません。
気付けば、世界中の人々が、この放送をテレビで見るようになっていました。
画面の右隅には、いくつかの数字が書いてあります。
その数字は時折、増えたり減ったりしています。
この数字の意味については、インターネット上でも話題になっていますが、まだはっきりとは分かっていません。
数字は全部で3つあります。
1つは、とても桁の大きい数です。
これは、視聴者数ではないかと考えられているようです。
もう1つは――今はゼロとなっていますが――いつも桁の小さい数。
最後に、時間を表すような、2つのコロンで区切られた6桁の数。
この数は、おそらく時間を指しているだろうということは、みんな分かっていました。
その数は、時間ごとに減っていきますから、タイムリミットまでの時間を指していることは分かるのですが、一体、何のタイムリミットなのかまでは、どうもはっきりしないようです。
他にも、画面には、数字以外の文字も書かれています。
画面の左上には、『有料放送』と小さく白い文字で書かれています。
どうやら、この番組を見るにはお金が必要なようです。
これもどうやって支払うのかは明確に番組中にアナウンスがあるわけではないですが、わたしたちの世界では、テレビ本体の縁にカードリーダーがついていますから、ここにいつもの通りに、クレジット・カードを通せばお金を支払えるのではないでしょうか。
それからもう1つ。
画面の右上にひときわ目立つフォントで書かれた文字。
放送番組の名前は――
『アイズ‘ ルーム』
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デッド・ライン
『アイズ‘ ルーム』に映し出されている男の人は、しきりに体をねじらせて、画面の向こうから何かを訴えかけています。
ところが、画面の向こうの音は、わたしたちには聞こえないのです。
無音放送なのです。
男の人はやせ細って、弱々しい目つきでわたしたちを見ています。
その目には、わたしたちへの恨めしい気持ちがあるようにも見えます。
しかし、わたしたちもまた、一体どうしたらいいのか分からないのです。
そのうち、画面の右隅の数字――タイムリミットを示した――は、刻々とゼロに近付いていきます。
逆に、大きな数字――視聴者数でしょうか――は、先ほどよりも大きくなりました。
みんな、期待しているのです。
このタイムリミットが何を指すものなのか。
ゼロになったらどうなってしまうのか。
インターネット上の書き込みも、その話題で持ちきりです。
真ん中の数字は相変わらずゼロのままです。
男の人にも、このタイムリミットが見えているのでしょうか。
画面いっぱいには、必死で何かを叫ぶ顔が映し出されています。
まるで、この世の終わりかのような表情で。
わたしたちは、その表情を、息をのんで見つめますが、ついにタイムリミットを迎えます。
ゼロ。
ゼロゼロ:ゼロゼロ:ゼロゼロ
画面は真っ暗になり、わたしたちの顔が画面に映し出されます。
放送は終わってしまったのでしょうか。
固唾をのんで見守る中、画面は沈黙を守ります。
しかし、いつまで経っても画面は真っ暗なままです。
やがてこの番組を見ていた人は飽きてきます。
そうして、リモコンでチャンネルを変えようとしたとき。
画面が煌々と灯り、わたしたちの手は止まります。
画面には、まだ幼い女の子が映し出されていました。
放送は終わってはいませんでした。
画面の右上には、ひときわ目立つフォントで書かれた文字――
『アイズ‘ ルーム』
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オープンド・アイズ
その少女は、部屋の中をキョロキョロと見回しています。
状況がつかめていないようでした。
視聴者数――と思われる――は、あの男の人のときよりも数倍大きい数字です。
そして、カウントダウンも始まっています。
わたしたちの中には、この放送が始まった直後から見ている人もいるのでしょうが、多くの人は開始直後の放送を初めて見ます。
タイムリミット。
それは日数に直すと、1週間。
そのカウントダウンが始まっています。
わたしたちはだんだんと、そのカウントダウンの意味が分かってきました。
そのカウントダウンは、放送期間を指しているのではないか、ということです。
そうです。
画面が真っ暗になって、しばらく沈黙が続いたのも、次の放送の準備のためだったのです。
そういえば、あの男の人はどうしてしまったのでしょうか。
わたしたちの中に、そんな疑問を持つ人も少なくありません。
しかし、みんなの興味は、やがて目の前の少女にくぎ付けになっていきます。
それから、数時間が経って、わたしたちは右隅の数字に変化があったのを見つけました。
数字には3つありました。
ひとつは、大きな数字――視聴者数――、コロンと6桁の数字――放送期間のカウントダウン。
わたしたちは、もう1つの数字があったことを覚えているでしょうか。
視聴者数と放送時間のカウントダウンの間に挟まれた――あの男の人のときはずっとゼロだった――小さな数字。
その数字がイチになっています。
わたたしたちは、その数字の変化に、思わずインターネット上の書き込みを探しますが、その数字について書かれた記事はまだありません。
何の数字なのでしょうか。
みんな、画面の少女と数字を見比べながら考えます。
そうして、もう1つ数字の変化があったのを見つけるのです。
その数字の変化に気付いた人はごく少数だと思いますが、その意味に気付いた人々が次々にその数字を画面に表示させます。
あっという間に、小さな数字は3桁になりました。
数字の変化、それは――
カウントダウンの巻き戻し。
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カウントダウン
画面の中の女の子のもとに、ケーキが差し入れされます。
わたしたちは自分たちの生活を忘れて、画面を見つめ続けて、今が何時なのかまるで気にしていませんでしたが、ちょうど三時を回ったところのようです。
思い出してみてください。
あの男の人は、まるで何日も食べていない様子でした。
彼にもケーキは差し入れされていたのでしょうか。
今となってはもう誰も気にも留めていません。
そうして、女の子がその部屋に慣れて来た頃。
右隅の真ん中のあの数字――わたしたちが先ほど気付いた、この番組の重要な要素――が3桁になってしばらく、カウントダウンの巻き戻しは止まってしまいました。
これはどういうことなのでしょうか。
色々と考えますが、結局答えは出ません。
そのうち、夜になってわたしたちはテレビを消して眠ってしまいます。
次の日になって、わたしたちはまた、あの番組にチャンネルを合わせます。
見ると、少女はまだ眠っていて、右隅のあの数字はまたゼロに戻っていました。
しばらくして、ゼロから1桁、2桁、と数字が増えていきます。
カウントダウンもやはり巻き戻しされます。
しかし、右隅のあの数字が止まると、カウントダウンの巻き戻しも止まってしまいます。
さて、女の子がようやく目を覚まして、眠気を手でこすっている間に、朝食が差し入れされます。
そこで女の子は、昨日はしなかった行為をわたしたちに見せるのです。
わたしたちに向かってこうべを垂れて、何か口を大きくゆっくり動かして。
あ、り、が、と、う。
そのようにわたしたちには見えました。
まるで、わたしたちにお礼を言っているかのようです。
そういえば、この部屋の住人は、こちら側に放送されていることを知っていました。
以前の男の人も、わたしたちに何度も訴えかけていました。
この彼女の行為は、一体何を意味しているのでしょうか。
単純に放送期間が延長されて喜んでいるのでしょうか。
そうなると、あの男の人の表情は一体何だったのでしょうか。
彼女たちは、わたしたちには分からないこの番組の他の要素について知っているのかもしれません。
とにかく、わたしたちは、分かったようで分からないこの番組を見続ける他ありません。
この番組の名前は――
『アイズ‘ ルーム』
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ガールズ‘ アイズ
《
そこは、簡素な部屋です。
わたしの目の前には、小さなディスプレーが置かれています。
それ以外には、ベッドとテーブル、それにいくつかの書籍の入った本棚しかありません。
誰がわたしをここに連れて来たのか、まったく分かりません。
分かることは、この部屋のちょっとしたルールだけです。
そのルールは、小さなディスプレーに表示されています。
真っ黒な画面の上に白文字で、箇条書きで書かれています。
その右隅には、3つの数字が表示されています。
“closed eyes”、”opened eyes”、”dead line”の3つの文字とともに。
画面の向こうで、誰かがこの部屋の様子を見ているのは、間違いのないことでした。
これらの言葉の本当の意味は、わたしにはよく分かりません。
ただ、”dead line”のカウントダウンと、その下に書かれた文字が重要であることは、もう誰に言われなくても理解していました。
“Am I a person that you need?”
この部屋に置かれている辞書で調べたとき、わたしは悟ってしまったのです。
その時わたしは、今までの――というほど年を重ねているわけではない――の人生の中で、初めて“生きる”ということを考えたのです。
生きるということは必要とされること。
必要とされるということは、生きる“価値”を他者が値踏みをするということ。
わたしには何か、才能があるというわけではありません。
それでも、”生きる“価値”があるということを、”dead line”までに認めてもらわなければならないのです。
それが、この部屋から出る唯一の方法なのですから。
画面の1番下に書かれた文字。
“THAT I LIVE”
それこそが――
“EYES’ ROOM”
》
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クローズド・アイズ
女の子の放送が始まって数日が経過しました。
画面の中で、女の子は日々、勉強をしたり絵を描いたり、一生懸命に何かに取り組んでいます。
時折、その成果をわたしたちに見せてくれます。
今日は、女の子の家族の絵でしょうか。
お父さんとお母さん。
真ん中に笑顔の女の子。
クレヨンと色鉛筆だけの拙い絵ではありましたが、わたしたちは、その絵に何かを考えさせられるような気持ちになります。
右隅のあの数字は、日を追うごとに小さくなっています。
もう明らかでした。
あの小さな数字は、わたしたちのテレビの隅についているカード・リーダーを通して番組にお金を支払った人の数なのです。
支払いは1日につき1回有効で、夜の12時を過ぎると再びゼロになります。
それから、あの数字の大きさによって食事の豪華さが変わることも、わたしたちはもう気付いていました。
その意味の重さは、単なる視聴者に過ぎないわたしたちにとって、とても背負いきれるものではありません。
みんながみんな、お金を払えるわけでもありませんし、この番組が“今後も続いた場合のこと”を考えると、あの数字が減っていくのも分かります。
それに、この後の女の子のことを考えると、わたしたちはボタン1つで日常に戻るべきなのかもしれません。
それは、仕方のないことでした。
それは、仕方のないことです。
それは、仕方のないことでしょうか。
わたしたちは、知らず知らずのうちに、見ない振りがうまくなりました。
いいえ。
見ない振りができる環境をうまく使えていないだけなのかもしれません。
やがて、視聴者数全体はどんどん小さくなっていき、やがてあの数字も以前と同じ、小さなものへと変わっていったのです。
そうして、タイムリミットが近付いてきたとき、やつれきった少女は画面の前に立つと、あの時と同じように口を動かしたのです――
《
ありがとう
》
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アイズを見つめるアイズ
あの放送は今でも続いているようです。
不思議なことに、わたしたちはあの部屋が何なのか、おおよそ見当がついているのにも関わらず、放送は終了することなく、今日もまたボタン1つで誰かの存在を“値踏みする”ことができます。
一体、誰があの部屋を放送しているのか。何故、誰も放送を止めないのか。
それは、今となっては分かりません。
わたしたちは、もう日常に戻って来たのですから。
いいえ。
完全に日常に戻る前に、ひとつだけ。
実は、ひとつだけ、わたしたちの認識に誤りがあったことを、わたしは知っています。
それは、右隅の数字の1番上。
視聴者数全体を表していると思っていた数字。
真ん中の数字――お金を支払った人の数――がゼロでなかったとしても、一番上の数字がゼロになることがありました。
これはつまり1番上の数字には、真ん中の数字は含まれていない、ということです。
この意味を、わたしたちはよく考えた方が良いのかもしれません。
この放送は有料放送です。
しかし、お金を支払わなくても見ることができます。
わたしたちは、都合よく“見ない振り”ができる環境にいます。
ボタン1つで、わたしたちは誰かの部屋を見ることができて、見ないこともできます。
考えることができて、考えないこともできます。
助けることができて、助けないこともできます。
そんな世界にわたしたちは生きているのです。
そして、この世界こそが――
『アイズ‘ ルーム』
(完)
SPECIAL THANKS: everyone on Twitter