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花酔い
(
住谷 ねこ
)
投稿時刻 : 2016.03.09 14:30
字数 : 1176
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花酔い
住谷 ねこ
3月3日はひな祭り。
花を飾ろう。
甘酒
飲もう。
雛あられ ころころ
ころころころ ころころ
雛あられ ころころ。
うちの、おひなさまは、うさぎだ。
うさぎの顔をしたお雛様とお内裏様。
着物の端切れで作
っ
てある。
子供が幼稚園に上が
っ
たのを機会にネ
ッ
トで買
っ
た。
ぬいぐるみは好きだが、人形を怖がるので
これを見つけた時は親子ともに喜んだ。
小さな建売の家に何段ものお雛様は置けないし
手のひらに乗るくらいのお雛様がち
ょ
うどいい。
30cm×15cmほどの畳と両脇にぼんぼり
うしろに金の屏風もついていてかわいらしい。
遊びに来た娘の友達の中には、大きな何段ものお雛様を
も
っ
ている子もいるが、この小さなうさぎの方がいいとい
っ
て
羨ましがられていた。
「お母さんは?お母さんは持
っ
てなか
っ
たの?
おひなさま。」
今年、小学校に入学する子供が聞く。
「どうして?」
「有希ち
ゃ
んのお雛様は、有希ち
ゃ
んのママの
なんだ
っ
て」
「ふううん」
「ママの使
っ
てたお雛様をもらうのもいいね」
「あなた、だ
っ
て人形嫌いじ
ゃ
ない」
「うん。でもお母さんのならいいかも」
私の、お雛様。
私も持
っ
てた。お雛様。
うさぎじ
ゃ
なくて
端切れで作
っ
たのじ
ゃ
なくて
こんない小さくなくて
り
っ
ぱなお雛様だ
っ
た。
8段飾りだ
っ
た。
子供に価値などわからなか
っ
たが
そこそこ高価なものだ
っ
たのか
や
っ
ぱり品のよい顔をしているねと
よく聞こえてきた。
8段のお雛様を出すのはなかなか大変で
それをまた片付けるのも大変で
中学に上がる頃には、もう出さなくな
っ
ていた。
おばあち
ゃ
んが入院してお見舞いに行
っ
た時に
突然、お雛様、たまには出さないと
あんたお嫁に行かれなくなるよ と笑
っ
た。
お雛様はそのまま実家に置き
っ
ぱなしで
遠い記憶に、品のいい顔をしたお雛様と言われていたことが
いつまでも残
っ
ていた。
そのまま忘れていたが結婚してまもなく
父が亡くなり、母一人では広すぎる家に兄夫婦が同居することになり
兄の長女にお雛様を出してもいいかと問い合わせがあ
っ
た。
ず
っ
とほ
っ
たらかしだ
っ
たのだから
虫が付いているかもしれないし
確認のためにも少し早めに出すというので
懐かしさもあ
っ
て手伝いに行
っ
た。
そして愕然とした。
物置と押し入れに分散されていたお雛様一式の箱はどれもみんな
空だ
っ
た。
誰かに譲
っ
たのだろうか。
すぐさま母にも聞いてみたが覚えがないという。
人にあげるにしても、中身だけなんてことがあるだろうか。
お雛様だけではない。
ひな壇の棚板一枚ないのだ。
あとは父がどうかしたかもしれないが
もう聞くこともできない。
義姉は、ないならしかたないわ残念だけどと言
っ
て
サバサバと何も入
っ
ていない桐の箱を端に寄せて
お茶でも飲もうと言
っ
てキ
ッ
チンに消えた。
どこへ行
っ
たんだろう、私のお雛様は。
ころころ。
ころころころころ。
雛あられ。
甘酒飲もう。
花を飾ろう。
3月3日はひな祭り。
了
次のお題 川に落ちた子供の話をお願いします。
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