てきすとぽい
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第45回 てきすとぽい杯
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産業主義
(
浅黄幻影
)
投稿時刻 : 2018.06.16 23:37
字数 : 1281
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産業主義
浅黄幻影
その日は客が二十人ほどや
っ
てきていて、大変賑わ
っ
た日だ
っ
た。彼は友人からのすすめだ
っ
た。汗をハンカチで拭きながら、緊張と不安で私の部屋に入
っ
てきて、そして話した。
「新しい商品のコピー
を考えているんです、まだ決ま
っ
ていないんです。コピー
というのは、まあ、売り文句みたいなもので、こういうのは商品と一体とな
っ
て作るので、後から付け加えるわけじ
ゃ
ないんです。それで
……
先生に、何かいいお考えがないかと」
私は彼の年齢と誕生日を聞いた。四十五才七月七日生まれ。
私は仰々しくいくつかの本を開いて眺め、彼に言
っ
た。
「まずはあなたのことを知らないといけませんから。時期的にですが、ご結婚されていますね?」
「
……
はい」
「奥様はおそらく、若くて、五月生まれでは?」
「そのとおりです
……
」
「子宝には恵まれていないようですが
……
それも気になさ
っ
ているようですね」
「そういうこともわかるんですか」
「なんとなく見えますね。大切な方を大事になさるといいと思います」
すべてこの客を紹介した男が友人関係で話したことだ
っ
た。その信用ももとにして、おおよその住所と家族構成、会社の位置
……
などを聞き出した。
「ご相談の件ですが、基本に立ち返るといいと思います。ご商売の件では、私は繊細な判断はできませんが、迷
っ
て焦
っ
てはいけません。もちろん時間がないのでし
ょ
うが。いくつか確認をするといいでし
ょ
う。過去の経験も豊富なようですし。も
っ
と周囲を見まし
ょ
う。商売は見えないところから始まるのでし
ょ
う?」
「そうです!」
彼は心を掴まれたようだ
っ
た。
「そうです! 私はそれを考えていたんです。そうなんです! 百円しか持
っ
ていない人は、千円のものを買うために努力はしても、一万円のものは追いません。だから、ギリギリ見えるか見えないかから
……
そうでした。ありがとうございます。私は、これで大丈夫です!」
男はさらに吹き出した汗をおさえながら出てい
っ
た。
私は彼を微笑みながら送り出した。彼が何を言
っ
ていたのかはさ
っ
ぱりわからなか
っ
た。
私は悪魔である。
私たちは占い師のなかでも、本物の悪魔。あの世界からや
っ
てきたもの。
占い師のところへは多くの人間がや
っ
てくる。幼い子の未来、恋人、学業、就職
……
そしてお金。お金の問題はかなり多い。なんとい
っ
ても、お金以外の問題はたいていお金で解決するから。
悪魔が欲しが
っ
ているものはお金ではないが、産業はも
っ
とも豊かな私たちの喜びのもとにな
っ
ている。
「この新商品はあなたの人生をこんなに豊かにしてくれますよ。あなたにお似合い、も
っ
と素敵になれます。笑顔になれます、ハ
ッ
ピー
です。」
そう言
っ
ていらないものを売り込んで、欲しがらせて、お金のために働かせる! 今日のようなお客は大歓迎。その最たる者なのだから。働けば働くほど、産業は肥大化して苦しみは増していく。そして私に助言を求めて間違
っ
た道を歩み、苦しむ。私たち、悪魔のしあわせのもと。
人間には言わせておけばいい。
「新しい生活始めました!」
そして最後まで「しあわせを始められる」と思わせておこう。それこそが、私たち悪魔にと
っ
てのしあわせなのだから!
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