第46回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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夕日の音を知っていますか? 夜の青さを認識しました(予告編)
投稿時刻 : 2018.08.19 04:28
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夕日の音を知っていますか? 夜の青さを認識しました(予告編)
犬子蓮木


「あなたをこの街から連れ出しにきました」
 図書館のカウンターに現れた女性が言た。
 かすかに息を切らした様子で、しかし心の底から嬉しそうに微笑んでいる。
 彼女の服装は動きやすそうなもので、ここまでの山道を乗り越えて来たためか、土埃にまみれていた。

   ―― ここはワースレスガーデン。学者たちによて作られ学術都市。そして役目を終えた街 ――

「僕は、この街の管理人です」
 図書館のカウンターから顔だけを出していた少年が言た。
 少年は、表情を微動だにさせない。
 感情なく、しかし礼儀正しい様子で微笑み、言葉を発した。
「ですから、この街から出ていくことはできません」

   ―― 少年はロボトだた。与えられた役目のまま、住む人のいなくなた街を守り続けている  ――

 図書館の自動ドアが開いた。朝の光とともに入館したゼラが、ゆくりと優雅な様子でクの座るカウンターのもとへ歩いていく。彼女の長く黒い髪とスカートが声のない図書館で踊るように弾む。
 ゼラは、クの向かいに立た。クの顔を見て、しかりと眼を合わせる。それから、小首をかしげて尋ねた。
「なにか楽しいことでもありましたか?」

   ―― クに感情が戻りつつあた。日々、少しずつ、人間のように…… ――

「なんでもありません」
 クが頬を赤くして勢いよくカウンターに顔を伏せた。時間をとる。小さく深呼吸をする。それから顔をあげる。
「ひ!」
 クが驚きの声を出した。顔をあげたクの眼の前にゼラの顔があた。すぐにでも触れそうな距離で、ゼラがクの顔に息を吹きかける。クは勢いよく体を後ろに反らし、椅子から転がり落ちた。

   ―― そうしてクは『怒り』も取り戻す ――

「あなたが僕を作り変えたのですね」
 クがゼラの前に立つ。首を曲げて、斜め上にあるゼラの眼を睨んだ。
 ゼラが動揺している。唇を震わせていた。しかし言葉はなかた。
「僕は、あなたが来てから変わていた。いろいろなことが楽しくなた。世界がカラフルに色づいてみえた。あなたを……たぶん、好きだと思うようになた。この街を出て、あなたに着いて行きたいと……
 ゼラが首を大きく横に降た。眼に涙が浮かぶ。赤い頬に一筋の線が光る。
「全部、あなたが、僕のプログラムを書き換えたんだ」

   ―― 与えられたもの、奪われたもの。復元か、矯正か…… ――

「夕日の音を知ていますか?」
「夜の青さを認識しました」
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