案の定、竜です。
昔々、それは見事な髭をたたえた竜がおりました。竜は神との戦いに明け暮れておりました。それは百億の昼と千億の夜に渡る、長い長い戦いです。その戦いがいつ始ま
ったのかは誰にもわかりません。当の竜にも、相手の神すらもいつから、何故はじまったのかもわからなかったのです。それはこの世の事わりであり、永劫にも続くと思われました。
しかし、ある日、竜は傷つきました。翼は破れ、角は折れ、はがれた鱗は地上へと落ちて大穴を開けました。もうこれ以上戦い続けることはできません。傷つき、疲れ果てた竜は神から逃れ、翼を休めることにしました。竜はひと時の休息のつもりだったのでしょうが、彼の傷を癒すためには長い、長い休息が必要でした。そして、栄養が必要でした。
竜は根を張り、その中に通した脈を伝って周囲から養分を吸い取っているうちに動けなくなってしまいます。竜は困って溜息をつくと、今度は口の中から糸が出てくるではありませんか。慌てて止めようとしましたが、一向に止まる気配もなく、やがて竜の体を取り巻いてゆきます。それはついには大きな繭となりました。
そんな伝説が、この世界には伝わっています。この世界は、竜が作った繭の中。この大地は竜の体で、地中を流れる溶岩は竜の血、あの山脈は竜の鱗、だなんて具合です。
さて、そんな竜の繭の中に閉じ込められてきた我々ですが、ついにこの竜の繭を破って外の世界へと飛び立ちます。
飛び立ってどうするかって?
そうですね。
まずは竜の復讐。
神でも殺しにまいりましょうか。