てきすとぽい
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第47回 てきすとぽい杯
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涙のウロコ
(
住谷 ねこ
)
投稿時刻 : 2018.10.20 23:35
字数 : 1578
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涙のウロコ
住谷 ねこ
病室に着いたとき彼女はまだ眠
っ
ていた。
安らかに眠る彼女を僕はじ
っ
と見る。
毎日なにも変わらないようだが
う
っ
すらと髭がのびている。
もともとそうだ
っ
たのか
こんな体にな
っ
て手入れをしなくな
っ
たからなのか
前より毛深くな
っ
たような気がする。
ふと思いついて布団から腕を取り出して持ち上げる。
腋毛ものびている。
腋毛を一本つまんで引
っ
張
っ
てみる。
何も反応はない。
手首を握る。
とくとくとくとく
…………
規則正しく脈をうつ。
や
っ
ぱり、手入れの問題なんだろうな。
と納得して布団をかけなおし、この場合僕が手入れをしてあげるべきなんだろうか
と考えてみる。
彼女は僕の奥さんだ。
だけど 目が覚めたとき
彼女には地獄が待
っ
ている。
彼女の口癖は
「もういやだ」
「つかれた」
そして「死にたい」だ。
ここ半年くらいは いやだも 疲れたも通り越して
ひたすら「死にたい」と呟いていた。
どうしてそんなに死にたいのかは
彼女にしかわからない。
そんな風に死にたが
っ
て
死にたい死にたいと言いながら
それでも 毎日 掃除機をかけ
洗濯をし、食事の用意もして
……
とい
っ
ても 料理はあまり好きではないらしく
たいていはスー
パー
で買
っ
たお惣菜だ
っ
たけど。
とにかくち
ゃ
んと用意をしていた。
だから「死にたい」とい
っ
ても
あまり心配していなか
っ
た。
そうして変わらない毎日を送るうち
「死にたい」という言葉も
ただの口癖だと気にもしなくな
っ
た。
そんなある日、突然 彼女は飛び降りたのだ。
僕らの家は細長い三階建ての建売で
狭いけど三階の上は屋上にな
っ
ていて
洗濯物が干せるようにな
っ
ている。
いつものように普通に 死にたい死にたいと言いながら
掃除をし洗濯をし 洗濯物を干している途中だ
っ
たらしく
シー
ツと一緒に落ちた。
第一発見者および 救急車を呼んでくれたのは
隣の奥さんで 隣の奥さんはそのまた隣の奥さんと
玄関先で話をしている最中で
ドスンと 鈍い音を聞いた。
少し地面も揺れたような気がしたと後で言
っ
ていた。
振り向くとシー
ツが落ちていて
白いシー
ツは翼のようで
はじめ、大きな鳥かと思
っ
たそれは見る間に赤く染ま
っ
てい
っ
たのだという。
高さで言うと
……
8? 9メー
トルぐらいだろうか?
そのくらいの高さから落ちた時の
死ぬ確立がどれくらいなものかは知らない。
人はも
っ
と高いところから落ちても助か
っ
たり
打ち所が悪ければほんの数段で死んだりもするからだ。
彼女はそれがいいことか悪いことか
……
まだわからないが、とにかく一命を取り留めてしま
っ
た。
もちろん状態は優しくない。
足は両方とも複雑骨折あるいは粉砕骨折で
右足は木の根
っ
このように捻じれて
もうどうにもならなくて切断した。
クビの骨が折れたので麻痺が残る。
それがどの程度のものかはまだわからない。
全身麻痺かもしれないし 半身かもしれないし
車椅子に乗れるかそれともず
っ
と横たわ
っ
たままかもしれない。
今のところは首から下 なんの感覚も無く
クビも折れたままぐらぐらなので
少しでもずれると呼吸が止ま
っ
てしまうから
ものすごい まるで拷問のような器具で固定されていて
なにひとつ動かすことはできない。
落ちて一週間、彼女の毎日は
目が覚めると恐怖と絶望のためか
目を大きく見開き 口をあけている。
たぶん泣いているんだと思う。
涙がいくらでも流れてくる。
声は 出ないのか 出せないのか
開いたままの口は ず
っ
と叫び声をあげているんだろうと思う。
ず
っ
とそうしているのは き
っ
と疲れるんだと思う。
しばらくすると彼女は眠る。
もし 話すことができたなら
彼女は また「死にたい」というだろうか
もう自分では何もできなくな
っ
てしま
っ
たから
今度は「殺してくれ」というだろうか
もう二度と起きたくないと。
殺してくれと言われたら
僕はどうするだろうか。
死にたいとい
っ
ていた彼女を放置したように
や
っ
ぱり知らんふりをするだろうか。
何もできなくなり絶望する彼女を
それでも生きてくれというほどの強い思いを
僕は見つけることができない。
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