第48回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・白〉
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失われた愛を取り戻せ
投稿時刻 : 2018.12.15 23:51
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失われた愛を取り戻せ
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「ノノ・スピポア氏」
 市長はデスクの上で8本の腕を思案げに組み、うなた。
「わざわざ市庁舎までおいでくださりましたが、先日書面でもお伝えした通り、あなた方の活動にこれ以上の出資をすることは、難しいと思ています」
「市長どの、そこをなんとか、お考え直しください」
 ノノは7本の足でステプを踏みながら、懇願する。
「あなた方「銀河系有機体愛好連盟」の活動には、私も個人的に深く賛同しています。遠く離れた銀河系でかつて反映していた有機体、知的生命体。それはロマンです。彼らの存在を深く知ることは我々の知的好奇心を刺激し、情緒を豊かにしてくれます。しかし、我がレレリプロポン国が今、経済的に窮地に立たされていることは、あなたもよくご存じでしう。国内の緊急性の高い事業への予算だけで、すでに逼迫している中、アンドロメダ星雲外への探索に莫大な費用を投じる余裕はないのです」
「市長どの、系外有機体の研究は、ただ知的好奇心を満たすためだけにあるのではありません。我々の種の存続にも繋がると考えています」
――どういうことです?」
 ノノの言葉に、市長が眉間を大きく膨らませた。
「我々レレリプロポン国民……いえ、デラブロロリ星人全体が、今、「停滞」していると感じます。人口は減り、多くの者が気鬱の病を患い、意欲を失い……経済や科学も、この数世紀、ほとんど発展していません。それは何故か? 私は、この状況を打開するヒントを、太陽系第三惑星原産のホモ・サピエンスに見いだすことができると考えています」
「ホモ・サピエンスは、我々が宇宙探査を可能とするずと前に銀河系から脱出できずに滅亡した種でしう。それから何を学べというのです」
「確かに彼らは我々よりは原始的な文明しか営めないまま滅亡した。だが、その最後の刻まで、意欲を失わず、滅亡の運命に抗おうと戦い続けた。その強靱な精神こそ、今の我々に必要なものなのです。その原動力。すなわち、愛です」
「愛!」
 市長は、バカにしたようにへそからガスを噴射した。だが、ノノはひるまず、目から白い液体を噴射しながら市長を見つめ続ける。
「そう、愛です。すなわち、性欲」
「生殖行為は、我々デラブロロリ星人もかつて行ていました。あなたの考えも及ばないくらい、何世紀も前まではね。それは原始的で低俗で、人権を無視した行動でした。ですから、我々は遺伝子操作と細胞培養による継代の方法を得てからは、愛も性行為も行わなくなたのです」
「性は、性欲は、汚れたものでも低俗なものでもありません。我々がそう思ているのは、それを進化させずに何世紀も前に捨て去たからなのです。ホモ・サピエンスは、滅亡の最後の瞬間まで、愛を、性を、捨てなかた。そしてそれを常に進化させてきた。はじめは、彼らの行為は、時に暴力的であり、低俗だたかもしれない。しかし、彼らの社会が発達するにつれて、それも進化したのです。人権への意識の改革」
「性欲、性行為の進化?」
「はい。今日は、先日の太陽系第三惑星探査で遺跡から持ち帰た、ホモ・サピエンスの生殖行為の資料をご覧いただきたく、お持ちいたしました。こちらをごらん下さい」
「これ……これは?」
「これが、21世紀のジポンという国の、生殖行為を描写したものです」
「いえ、でも、これは……この交わている二人は、ホモ・サピエンスではないのでは?」
「はい、これは、ホモ・サピエンスが常用していた衣類、パーカーと、その部品であるチクです」
「どういうことです?」
「市長の仰るように、ホモ・サピエンス同士の交わりは、非人道的で低俗であると、彼らも21世紀には気付いたのでしう。しかし、彼らは心から生まれる、愛を求める気持ち、子孫を残したいという気持ち、名状しがたい魂から生まれるパワー……それを捨て去ることができなかた。だから、生殖行為を、無機物に託すことにしたのです」
「そんな……と何言てるかよくわかんない」
「市長!」
 ノノは8本の手を複雑に絡ませ、市長に迫た。
「この資料を、是非、ごらん下さい。我々の種の存続のヒントが、必ず見つかると、信じています。どうか!」
 その迫力に押され、市長は思わず液状化する。
 市長は、銀河系の生命体を研究する「銀河系有機体愛好連盟」の創始者と親しくしていた縁で、ノノのことも若い頃からよく知ていた。かつては気弱で、口数の少ない若者だた。それが、まるで見違えるように、持論を唱え、自分に意見してくる。
 何がノノをここまで変えたのか。
 ノノが今差し出してきた、このパーカーとチクの生殖行為を描いた資料であることには間違いない。
「わかりましたよ……ノノ。そこまであなたが言うのならば。この資料は預かります。次の面会日までに、目を通しておきましう」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
 転がるようにして部屋を出て行くノノを見送り、市長は元の個体に戻た。
 愛。それは、本当に我々に必要なのだろうか。
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