てきすとぽい
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土竜と呼ばれた男
(
バルバルサン
)
投稿時刻 : 2019.05.18 18:49
字数 : 1290
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土竜と呼ばれた男
バルバルサン
土竜という兵士がいた。彼は、穴掘りがとても上手か
っ
た。
ザクザク、ザクザク、穴を掘るのが得意な兵士だ。ただ穴を掘るだけと侮るなかれ。
穴が無ければ塹壕は掘れない。穴が無ければ地雷も埋められない。戦争において、穴はとても重要なのだ。
そんな彼とその仲間に与えられた特命があ
っ
た。それは、穴を掘り、地下塹壕に取り残された兵士の脱出経路を確保せよと。
土竜は穴を掘り始めた。場所は戦場から距離のある空き家。その床板を外して穴を掘り始める。
手には愛用のスコ
ッ
プ、何度も使われ、擦り減り、鋭く剣ようにな
っ
たスコ
ッ
プ。それを使い、穴を掘
っ
ていく。
ザクザク、ザクザク、掘
っ
ていく。岩をどかし、石をどかし、とにかく掘
っ
ていく。
ミミズなど地下の虫がスコ
ッ
プで切れて死ぬ。そんな事は関係なしに掘
っ
ていく。
十メー
トル、の縦穴ができたら、次は横穴だ。仲間たちは地上へと土を運び、土竜が埋まらないように手助けをする。
横に十メー
トル、百メー
トルと穴が伸びていく。何度も昼が訪れ、夜が訪れる。空には戦闘機が飛んで行き、砲撃の地響きが鳴る。
その地響きで穴が崩れそうになるが、そこは土竜。穴掘りのプロだ。し
っ
かりと穴を補強し、穴が崩れないよう注意を払う。
二百メー
トル、三百メー
トルと穴が伸びていく。そしてついに、向こう側へと到達した。
穴が開いて、地上に出た彼の目に飛び込んできたのは、塹壕内、全滅した兵士たちの死臭だ
っ
た。
◇
ザクザク、ザクザクと穴を掘る。ひたすら、ひたすら穴を掘る。
今掘
っ
ているのは、仲間たちを弔う穴。
あの後、危うく敵に掴まりそうにな
っ
たが仲間の空爆に助けられ、穴を戻
っ
てなんとか逃げた。
その後少しして、終戦の時を迎えた。戦争は終わ
っ
たのだ。
土竜は兵士として、死んでい
っ
た同胞や、敵が眠る墓の穴を掘る仕事に従事した。
一人、一人の眠るための穴を掘る。ザクザク、ザクザク掘
っ
ていく。
自分の寝る間も惜しんで穴を掘る。あの穴で救えなか
っ
た兵士たちのための穴を掘る。
百や二百では収まらないほどの穴を掘り、一人一人の亡骸を埋めていく。ポンポン、ポンポン埋めていく。
十年、二十年と時間がた
っ
ても、彼が穴を掘ることをやめる事はなか
っ
た。
掌はつぶれたマメでガ
ッ
ツがちに固ま
っ
ていた。腕の筋肉が異様に硬く、鍛えられていた。
◇
四十年と時間が経
っ
た。ザクザク、ザクザクと穴を掘る。今掘
っ
ているのは、自分の眠る穴。
そろそろ、寿命を迎えるだろうと思
っ
た土竜は、自分の眠る穴を掘
っ
ていた。
ザクザク、ザクザク。穴が出来上が
っ
てく。そして、ついに穴が出来上がれば。
ふらり。そう体が揺れて、ばたりと土の上に倒れた。土竜と呼ばれた男。穴の中で死ぬ。
その死に顔は、本当に穏やかなものだ
っ
た。彼は、穴を掘るために生まれ、穴を掘
っ
て逝
っ
たのだ。
◇
ザクザク、ザクザクと穴を掘る。今掘
っ
ているのは地獄の穴。兵士として殺しもしていた土竜は、地獄で穴を掘
っ
ていた。
その表情は、他の地獄の亡者とは違
っ
て、かなり明るいものだ。彼としては、穴を掘れれば、そこが地獄でも、天国と同じらしい。
ザクザク、ザクザクと。いつまでも、穴を掘
っ
ていた。
いつまでも、いつまでも
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