第一回てきすと恋大賞
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ランチタイム
投稿時刻 : 2013.05.29 22:21
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ランチタイム
伝説の企画屋しゃん


 小島はその日も、菓子パンを食べていた。
 毎日毎日、昼休みになるとコンビニへ行き、カレーパンやらアンパンやらを買てくる。
 シツは襟がよれてて、スーツも二着しか持ていない。
 同じ職場で働く同期なのに、何故にこうも貧乏臭いのか不思議になるほどだ。
 営業ではないから、身なりに気を使わないのだろうか。
 そう考えることもできる。
 しかし小遣い制限のある妻帯者でもないのに、どうして毎日菓子パンなのか。
 ふつうに推測して理由は一つしかない。小島はきと金を持ていないのだ。

 貧乏なだけでなく、小島は小心者で無口な男だた。誠実な人間のような気がするが、私生活には謎が多い。よくよく考えれば、住んでいる場所も出身地も分からない。人並みに給料をもらているはずなのに、どうして毎日菓子パンなのか。近くには安い牛丼屋もあるというのに。
「お前、今日も昼はパンなのか?」
 翌日、トイレで隣り合わせた小島に訊いてみた。
「まあね。俺は、昼は毎日菓子パンと決めているんだ。いわゆる一身上の都合という奴さ」
 少し考える仕草をしてから、小島は言た。用を足しながら、なんで、と当然の疑問を訊いてみる。
「だから一身上の都合て言ただろう。秘密というほどじないけれど、人には説明したくないことだてある。でも、誰にも言わないと約束するなら、教えてやるよ」
 用を済ませて手を洗う。鏡にうつる小島の顔は、何故か誇らしげだ。
「まさかレジの店員が好みとか、そんなのじないよな?」
「想像力に欠けるが、いい線だ。お前、俺が食べている菓子パンを見て、何か気付かないか?」
 小島はネクタイをいじていた。小さなシミがついている。あまりに見慣れた光景で思い出すのも難しいが、たぶん何月も前からシミつきだ。
「何もおかしなことなさそうだけどなあ。それよりも、ネクタイ買えよ。百均で売ている奴の方がまだ見栄えがするぞ」
「うん、でも、これでいいんだ。少しだらしない方が、向こうも余計な心配をしないから」
「向こう?」
 女の匂いがしたが、そうだとしたら変わり者だ。冴えない服装が好みだなんて、ちと理解できないものがある。
「で、俺が食べている菓子パンだけど、あれ全部同じメーカーのものだよ。不思議と食べていても飽きない。このパンを開発するために、アパートにいる時も考え事をしているんだなとか、そんな風に思うと、手作りの料理を出されているみたいだし」
 少し綻びのあるハンカチで手を拭くと、小島は幸せそうに笑た。腕時計を見ると、十二時に近い。菓子パンを食べることが生き甲斐だなんて、ひどく働く意欲が萎えてくる。
 他人を羨むことなんてなかたけれど、これを嫉妬と呼ぶならそうかもしれない。
 今日の昼飯は何にしよう。
 誰より美味いものを食てやろうと思うものの、、それにはパン製造メーカーに勤める女を見つける必要がありそうだ。
 
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